食料調達で村の外に出ようとしていたは、村人の悲鳴が聞こえて直ぐに駆け付けた。
其処には、村の子供が血を流して倒れている。母親が寄り添うように震えて泣いていた。
その母と子を囲うように、村人とは違う男たちが立っており、その一人が何故かシンアの刀を持っているのが見えた。
とうとう本物の賊が出てしまった事と、何故奴らがシンアの刀を持っているのか分からないまま、は狐面を被ると先にヨナを探した。中々見つからないヨナより先に見付けたのはシンアだった。
騒ぎのあった現場からだいぶ離れた場所だ。
「シンア!一体何が起きて───」
「出て行けぇぇぇぇぇ!!」
シンアに声を掛けた時、ヨナの声が聞こえた気がした。
「ヨナ……」
「もしかしたらヨナはあっちに…!」
昔の様に白狼の耳と鼻が使えない。
こんなにも、もどかしい気持ちは久しぶりだった。
二人が現場に戻るとヨナは賊に担がれ連れて行かれそうになっており、村も騒動で滅茶苦茶になっていた。
村の物資を持ち出そうとしているのか、少しもたついてる賊の男に向かってシンアが頭を掴むとそのまま地面に叩きつける。あんまりやり過ぎないようにシンアに声を掛けると、彼は頷いて殴る蹴るで応戦した。
もシンア同様に体術で賊を倒していく。
それでも人数は圧倒的で、次第にシンアも圧されていき、ついには脇腹を刀で斬られてしまい地面に倒れた。
「シンア…ッ!」
「おっと、お前さんも動くんじゃねえよ」
一瞬の隙を見逃さなかった賊の男が、その刀をの背後から突きつけるように構えると笑う。
「……私の事は連れて行こうが殺そうが構わない。でも、村の人たちや…彼女を置いて行って」
「ほう。お前のその声、女か」
の狐面を別の男が奪うと、彼女の顔を見て顔を蒼白させる。
金色の瞳からお前を殺すという射殺さんばかりの威圧を感じたからだ。
しかし、彼女の眼は珍しいもので他の男たちはを連れて行って売り飛ばす話を始めた。
そうしている内に、男の肩に担がれ気絶していたヨナが目を覚まし、シンアとを放してと暴れ始める。
「これから、アイツが死ぬとこだ。よく見とけ」
「やめて!物が欲しいだけならもういいでしょ!?シンアとを…人を傷つけたりしないで!」
「うるせぇ!お前だって俺に矢を射っただろうが!!」
「それはお前が子供を…っ」
すると、賊の頭らしき男が、火の土地では人間の命は木の葉の様に軽い、殺らなきゃ殺られると言い、火の土地で生きていく為の手段はこうするしかないと語った。
二人のやり取りを見ている間、は自分の中にいる白狼に声を掛けると、彼女は欠伸をしながら返事をした。
───白狼、頼みがあるの。
(…なんだ?面倒ごとならお断りだぞ)
───私の背後で剣を構えてる男の足止め、出来る?
(まあ、出来なくもないが)
───陰に溶け込めるって言ってたから、そういうのも出来るんじゃないかと思ってた。ありがと。
二人が会話を終えると、の体から陰を伝ってスルスルと男の影に移動し、そして男が体に異変を感じた瞬間、は振り返って蹴り飛ばした。そのままシンアを殺そうとした男たちに向かっていくと、むくりとその場で立ち上がったシンアが面を外していた。
その瞳は、目が逸らせない程に美しく……まるで、龍に睨まれているような気持ちだ。
青龍の幻覚に嵌った男たちは次々と悲鳴を上げて倒れると、怪我をした訳でもないのに痛がり、そして精神崩壊を起こしていく。
「シンア…っ、駄目だ!目を覚ませ!」
がシンアの腕を掴むが、彼は振り解くことも無く、ただ男たちを睨み付けてゆっくりと近付いて行く。
今まで見てこなかった、見ることをしなかった世界が、鮮やかになっていく。
シンアの中で青龍の力が発揮され、ついには相手の心臓まで見え、透視するようになった。
色んなものが見える喜びと、それを壊したい衝動が重なり、周りは真っ暗になっていくばかり。
「ねえ!シンアは!?シンアはどうしちゃったの…ッ!」
「ヨナ、今のシンアと眼を合わせないで下さい」
「それって龍の眼が原因なの…?」
「今、青龍の眼は何らかの威圧を男たちに掛けてる。ヨナ、私にシンアを任せて貰ってもいいですか?」
「……でもっ、」
「大丈夫。私はちゃんとヨナのもとに帰ってきますから」
今にも泣き出しそうなヨナを優しく撫でると、立ち上がりシンアを見た。
この感じ、自分の体が覚えてる。……体は、青龍の力を覚えてる。
シンアに近付くと、彼の両頬を手で押さえ込むとジッと彼の眼を見詰めた。
「シンア、お願い。こっちを見て…」
彼の眼に見えたのは、暗闇の中にある金色の光。
その光が何なのか青龍の血が覚えていた。
シンアはその光に手を伸ばすと、触れた時に伝わる温もりに……覚えがあった───
◇
「初めまして、あなたのお名前は?」
俺は一人の女の子に声を掛けられた。
トモダチも出来なくて、ひとりぼっちだった俺に……
「お…おれ、せいりゅう…!」
最初から名前なんて無くて、そう答えたら彼女は嬉しそうに俺の名前を呼んでくれた。
好きになれなかった名前が、初めて好きだと思えた。
彼女はと名乗った。
そして俺をトモダチだと言ってくれて、俺も彼女が初めてのトモダチだった。
両親と一緒に里にやって来たは、いつか帰らなきゃいけないと寂しそうに笑う。
でも、里に居る間はいっぱい遊んでくれた。
綺麗な花が咲いてる場所を教えてあげると、嬉しそうに花を摘んで俺に花冠を被せてくれた。
俺に触れてくれる人は、もう居ないと思ってた。
アオにの話しをしたら、余所者だと言ってそれはトモダチじゃないって怒られた。
俺はそれでも良かった。
それから、アオが視力を失って、どんどんやつれていって、最後に俺に言ってくれた言葉。
『友達は大切にしろよ…』
そのたった一言が、俺には嬉しかった。
数日して、村を襲いに来た沢山の兵たちを見付けて、俺が里を護らなきゃって必死で、気付いたら夢中になってアオに使ったら駄目だと言われていた青龍の眼を使っていた。
あんなに大きかった大人たちが、小さく小さく見えて、見下ろして、それから……
───……りゅ、う!
何か、聞こえる。
───せ…りゅう…!
なんだろう、あの綺麗な光。
「シンア……ッ!!!」
「…ッ、」
「やっと……見付けた、シンア」
「……、俺、なに、が」
青龍の眼を使った反動が体に返ってきたシンアは、そのまま目の前にいるに向かって倒れ込んだ。
そのまま彼を抱き止めて地面に一緒に倒れると、はシンアの頭を撫でながら自分にもシンアの記憶が見えていたことを話し始めた。
「……思い出した、シンアと一緒に遊んだ事も、今みたいにシンアが苦しんでたことも…全部」
「……うっ…お、おれ…ッ」
「あの時と一緒ね…。シンアは絶対に私に触れてくれると思った」
懐かしむように微笑んだは、シンアが本当の弟のように思えて仕方なかった。
子供の頃、シンアが沢山の人を殺してしまった現場を見てしまい、は今と同じように彼を止めに入った。
無自覚ながら青龍の暴走を止める為の抑止力としての瞳は存在している事に、二人は未だ気付いてないようだが……獣神白狼は敢えてその事に触れず黙っていた。
これもすべて、彼らの成長の為でもあると信じてのことだ。
「シンア…!…っ、無事でよかった…二人が無事で…ッ」
「ヨナまで泣かないで下さいよぉ…。シンアの能力は呪い返しと同じなので意識が飛ぶかもしれないです。意識のある内に寝かせれる場所に運んじゃいましょう」
「えっ、青龍の力知ってたの!?」
「……ま、まあ。何となく気付いていた程度です、はは」
まずはシンアを起こそうと、自分の上に乗っかってる彼を退かそうとした時、秋村に行っていた連中が帰ってきた。
ボロボロになった三人の姿に、皆が驚いて駆け寄って来る。
ヨナもも全身傷だらけな上に、そのの上に倒れて動かないシンアは脇から血を流していた。
「キジャ、悪いんだけどシンア運んでくんない?重症なんだよねえ」
「わ、分かりました!お任せ下さい!」
「ヨナは先に怪我の手当てをしてきてください。私は───」
的確な指示を出すだったが、そんな彼女の頭を軽く小突いたのはハクだった。
「ったぁ…!私も怪我人なんだけど!?」
「オメェも怪我人ならちったぁ黙ってろ!」
「うっ…だからって小突くなんて…」
涙目になりながら叩かれた部分を擦っていると、を抱えてお前も手当てするぞと言って、ハクは勝手にユンの鞄から傷薬と包帯を抜き取ると空き家に入ったのだった。