各自がやりたい事、やるべき事を決めてイクスの所でお世話になっていた。
そんなある日、まだ皆が寝ている早朝にユンは野菜や薬、衣類など荷車に乗せていた。
これから彼が何処に行くか分かっていたイクスは、一人で大丈夫?と心配そうに尋ねる。ユンはヨナ達と出会う前から、加淡村に物資を届けたりと自己満足の偽善と言いながら一人でやってきた。
旅に出ている間、村のことが心配だったユンは今日こそは彼らの所へ向かおうと決めていたのだ。
「それじゃ、行ってきます。イクスは皆の事頼んだよ」
「いってらっしゃい、ユン君」
荷車を引いてイクスの小屋が見えなくなった辺りで、ユンは見た事のある後姿を見付ける。
なんだバレてたんだと笑うと、手を振って!と名前を呼んだ。
「……先回りしてるなんて、らしいね」
「おはよう、ユン。それ重いでしょ、押してあげる」
「えっ?別にいいよ、これは俺の自己満足だからさ」
「じゃあ、これも私の自己満足」
そう言っては後ろから荷車を押した。
ほんとお人好しなんだからと小言を言いながらも、ユンの顔は自然と笑顔になる。
最初はが何故付いて来たのか話す事になった。事前にイクスから相談を受けていた事を言えば、まあそんな気はしてたけどとユンは唇を尖らせていた。でも、怒ってるというより少し嬉しそうに見える彼の反応に、も自然と笑みが零れた。
道中は加淡村で何か出来ることは無いかユンに尋ねたところ、は護衛だし着いたら休んでていいよと言う。それでも何か出来ないかと聞けば、子供たちと遊んでやって欲しいとお願いされた。それぐらいなら、とユンにお願いされたことが嬉しかったは珍しく鼻歌を歌った。
加淡村に着いてから直ぐにユンは子供たちに囲まれていた。も皆に挨拶をすると身を屈めて子供たちの頭を撫でる。
ユンにお腹が空いたという子供が多く、村の現状を見て作物が上手く育たないのだろうと思った。
セドルという村人がユンに話しかけると、久しぶりに顔を見せたユンに村の調子を話していた。食糧不足、老人や病人ばかりなのに増税ばかりされる。
二人が話しているのを後ろで聞いていたは、ふと背後に気配を感じた。
すると、ユンに気付かれない様にこっそり来ていた悪目立ち面子が揃っていたので、やっぱりか…とは呆れ顔になる。
セドルも突然賑やかになったユンの背後を指差し、漸くユンも全員集合していたことに気付くのだった。
ユンが加淡村で何をしようとしていたか知ったヨナは、手伝いたいと言う。
しかし、此処は病人も多く治安も悪い。そんなところに一国の姫を置いておけないと彼らに帰るよう言うが、ヨナは高華の姫だからこそ来るべき場所だと真剣な眼差しを向けた。
「父上の行ってきた事の結果を、私は知りたい」
「………分かったよ」
他の皆もヨナに賛成しており、それが表情だけで伝わってきたユンは渋々了承した。
◇
自分たちで出来そうな仕事を探して村で働いていると、火の部族の役人がやってきた。
彼らは税の徴収をしに来たらしく村長を探していた。
ユンは急いでハク達の所へ行くと、役人が来たから隠れるように言う。
しかし、珍獣たちは役人はどいつだと野次馬見物人のように隠れようとしない。むしろ目立って居るようにすら見える。
「ねえ!コイツ等どうにかしてよー!」
「えっ?」
「え?じゃないから…!」
珍獣達とはまた別の意味で空気を読めてない彼女の反応に、ユンも最後の頼みの綱を失った絶望感は凄まじい。彼女は何やら作っているのか、その場に座ってその手を止める気は無いようだった。
火の部族の役人が村長の頭を足蹴にし、税が払えないのなら子供を売り払うと脅し始めた。
ユンはセドルをどうにかして助けたい気持ちでもどかしくなる一方、横を見るとキジャの手が戦闘モードに入っていることにギョッとする。一度キジャを落ち着かせてヨナに何とかしてもらおうと声を掛けるユンだったが、彼女も役人への怒りで既に弓を構えて射殺さんばかりの睨みをきかせていた。
ヨナが一番目立っては拙いので、彼女を落ち着かせるためにユンは必死になる。
そうしている間に、ユンの持ってきた物資を役人たちが見つけ持ち去ろうとし、それはユンが持ってきたから駄目だと村の子供が奪われないように役人のマントを掴んで必死に止めに入った。
その子供───女の子も連れて行き足りない分の税を補おうと言い出す役人たち。
「がぁっ…!?」
突然、一人の役人の肩に暗器が突き刺さった。
どこからか飛んできた暗器を目の当たりにし、誰がやったという役人の怒りの声に颯爽と姿を現したのはジェハだった。
まるで大人しくしない愉快な珍獣たちに、ユンは心の中で既に涙目だ。
「ちょっ…ジェハ、駄目だってば!」
茂みに隠れたままジェハに声を掛けるユンだが、物を奪うだけなら黙ってようと思ってたんだけどねとジェハが言うと、こうも続けた。
「女の子に乱暴するような美しくない連中を、僕が許すと思うかい?」
「……聞かないでよ」
「さすがユン君」
元海賊なので何処に行っても役人とは相容れないと、彼らしい台詞に居ても立ってもいられなかったのか、茂みの中からハクが姿を現すとその姿にユンも役人たちもギョッとした。
また変なのが現れたと役人たちが口々に言う。顔はシンアから奪った毛皮でもっさりとしており、その中からプッキューが顔を出すと、盛大に腹の虫を鳴らせた。
毛皮を奪われたシンアは膝を抱えてプルプルと震えていた。冬の風はとても冷たい。
ハクは自分から暗黒龍だと名乗り、役人の一人に大刀を見た事があると言われればポイッと捨てたりと、もう色々と取り返しのつかない状況に、更にキジャが白龍の手をチラつかせて登場し行き着く所まで行き着いてしまった感が否めなくなった。
「もう生きてるだけで目立つなら、思い切って目立っちゃおうか」
「え」
するとヨナは阿波で出会ったとある船長の真似をして、そこの鼻タレ役人共!と大声で自分たちは賊であるかのように、この村を縄張り発言した。
「ねぇぇ……、どうしよう……っ」
「え?」
「………はっ?」
既に作業が終わったのか手が止まっていたに声を掛けたユンだったが、振り返った彼女の顔に狐のような面が被さっており、また変なのが増えたとフラフラ雪崩れ込むように倒れ絶望するのだった。
こうして、役人を村から追い払ったヨナたちは、暗黒龍と愉快な腹へり達として名を馳せるのであった───
◇
こうして、この時期に取り立てに来る役人共に自分たちの縄張りであることを知らしめる為に、わざと賊に成り切り、村を襲う振りをして怖がらせながらも、物は取らずに配るという何とも愉快な賊として、火の部族の土地となっている村々を回って行った。
次に行く村の話しをしていると、秋村は遠方にあるらしいので人数を決めて行くことになった。他にも加淡村に役人が戻って来るかもしれないのでジェハがひとっ跳びして見張ることに。
そして今回、お留守番となったのは、ヨナ、シンア、だ。
戦力は充分だろうと、秋村や加淡村に向かった珍獣たちやユンを見送ると、三人はポツンと整地された石段に腰を下ろした。
「は、その面作ったの?」
ヨナはが面をズラして頭に掛けているのを見て、珍しいわねと言った。
「はい。私もシンアのように瞳の色が人と違って特徴的ですから、自分の身を護る為にも隠すのは必要かと思いまして」
「確かに。の瞳を見てると吸い込まれそうなぐらい綺麗で、ひと目見ただけで記憶に残っちゃうわね」
この金色の瞳が印象的で顔を覚えてもらう事も多かったので、今後の闘いを考えても身を護る為の術は持っておく必要がある。あと表情だけで心理を読み取ることが得意な敵が相手になった場合、面があるだけで命拾いすることもある。
「こうやって見てると、シンアとお揃いで姉弟みたいね」
「そうですか…?」
「が…俺の、姉さん…だったら、嬉しかった」
珍しく饒舌なシンアに、ヨナとは顔を見合わせるとふっと笑う。
「シンアっていくつだっけ?」
「多分、18…ぐらい」
「じゃあ、私と同じかも。誕生日はいつ?」
「1月3日、だと思う」
すると、はシンアの頭を撫でて、じゃあ私がお姉ちゃんだと笑った。
ヨナは二人を見て、何この可愛い姉弟と胸がキュンキュンし始める。
「ヨナ」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「今、シンアの剣取ろうとしました?」
「そ、そんな事は」
彼女の嘘が見抜けないわけがない。どこに目が付いているのやら違う方向を見ていたはずのが、ヨナの行動に一早く気付くと言及した。ササッとの後ろに身を隠すシンアに、やっぱり貸してくれないよねと寂しそうな表情を見せる。
もう奪わないからとシンアに剣さばきを見せて欲しいとヨナがお願いすると、彼はそれならと刀を構えて先代から教わってきた型を見せていく。
はシンアの剣さばきに、昔から変わってないんだなぁと懐かしくなった。
………ん?なんで懐かしくなった?自然と懐かしいと思ってしまった自分に、何でだろうと疑問を抱く。
ただそう思っただけで、シンアとの思い出は何一つ思い出せないのに……。
「シンアはどうして剣を手に取ったの?龍の瞳を持ってるのに」
ヨナの質問にシンアの動きがピタリと止まる。
彼にとってその質問は何かを思い出させ不安にさせてしまうのだろう。黙ったままのシンアにヨナは話したくなかったらいいの、と一旦引く。
しかし、シンアは剣を教えてくれた人が瞳の力は使ってはいけないと言った事を話し始めた。
「どうして……?」
「諸刃の剣…だから」
次々と質問していくヨナは、シンアの事を少しでも知ろうとしてのことだった。
でも、彼の中で蘇る過去に、次第に冷や汗を流し始める。
青龍の里でも、里の者が青龍に向ける恐怖心は異常だった。
ただ遠視したりするだけではない、別のなにか───それを、は青龍の里でシンアに出会った時に聞かせて貰っていた。
「……シンア、大丈夫だ」
「…っ」
シンアの様子がおかしい事に気付いたが声を掛けると、ヨナもシンアにそっと触れてごめんねと言った。
そしてヨナは、いつかシンアの目を見て話したいと続けた。
「いつかでいいの、いつか……シンアの笑顔、私に見せてね。口の端を上げて"にこっ"って。きっと可愛いわ」
三人でふわっとした雰囲気を出しているところに、村の子供がやって来て飴が欲しいという。もう飴はないと言い、お腹が空いたと言うので鳥を獲ってくるとヨナは弓を持って歩いて行った。
その場に残ったシンアに、ヨナにはまだ笑った所見せてないの?と問えばこくりと頷いた。は何度か見た事があったので、あんな風に笑えばいいのにと苦笑すると、自分も何か動物狩ってくると言って、村の周りを歩くことにした。