「ジェハー、この鳥獲ったから運んでー」
「構わないけど、段々僕への扱いが荷物運びになってないかな」
「そんなことないよ」

 自分はこっちがあるから、とジェハに見せたのは一頭の鹿。さっさと歩いて行こうとするの脇を掴むと「失礼するよ」と言いジェハは一気に空を跳んだ。



「――――ってことがありまして」
「ジェハ、お疲れさん」

 ゼェハァと四つん這いになって全体で呼吸をするジェハに、ユンがお疲れ様と労わっていると、たまたま近くに居たハクがそろそろ老体なんだから気を付けてくれよーと、ワザと聞こえるように言う。確かにジェハはこの中で一番の年上だが、それでもまだ25歳だ。老体と言われるほど体が訛ってるわけでも弱ってるわけでもない。

「えっと……ジェハ、休んでていいよ?何か甘いもの取ってくるから」
「あー、いいのいいの。僕が勝手にやった事だから」

 気を遣うに手をヒラヒラとさせて断ったジェハは、俺まだ若いから、とそこだけ強調してカッコつけていた。どうやら老体という言葉が彼の美学に反しているらしい。

「でも、黄龍もジェハの足があれば、直ぐに見付かりそうね」
「ああ、そういえば、あとは黄龍だけなんだっけ?」

 ヨナが嬉しそうにしていると、残りは黄龍だけかと四龍たちに黄龍の気配を感じ取ってもらう。黄龍の気配はあるらしいので、彼の里を探すことを考えてまずはご飯の準備に取り掛かった。ハクが火おこし、ユンが調理担当でヨナが助手をしていた。
 既に食料調達組の仕事は終わったので、ご飯が出来るまで黄龍について話すことにした。

 すると、ヨナ達が肉を捌いている中に一人の少年が現れた。
 涎を垂らしながら、両手を合わせて彼女たちと何か話している。

「……おい、ジェハ。あの者は」
「あ、それ僕も思ったんだよねぇ」
「……ん」

 三人が何かに気付いたように顔を見合わせると、も見覚えのあったその顔に、ああ!と思い出すと振り返った。

「ゼノ!!」
「よっ、白狼のお嬢さん」

 夢で見た少年、ゼノが現実に現れは驚いていたが、彼はのことを知っていたように朗らかに笑うと焼けた肉を頬張っていた。

「うーん…なんていうか、さっきからそこで肉食べてる子……なんだけど、黄龍、だと思うよ……」
「ん?」

 すると、黄龍ことゼノは四龍の名前を呼んで、皆さんお揃いで、と肉を持ったままお辞儀をした。

「えええええぇぇっ!?」

 森の中にみんなの驚く声が響き渡ったのだった。







 その夜、が月を眺めているとゼノがやってきて隣に座った。

「久しぶり……で、いいのかな」
「確かに俺は白狼のこと覚えてるけど、お嬢さんと会ったのは今日が初めてだ」
「そっか。初めまして、ゼノ」
「おう、お嬢さん……いや、。よろしくな」

 ヘヘッと笑うゼノにもつられて笑う。

「白狼の夢の中で、ゼノを見たの。ずっと変わらないのね」
「まーなぁ。俺の体は皆と違って頑丈だからさ」

 それは、暗に頑丈なだけではないだろうと思った。
 は心の中で白狼を呼ぶが、彼女は応答することはない。

 折角の邂逅なのに、恥ずかしくて出て来れないのかな。そんな風に考えていると、別に恥ずかしいわけじゃない、と返事が返ってきた。なんだ、いるじゃん。とクスクス笑っていると、隣で突然笑い出したにゼノが不思議そうな顔をする。

「なんだ?ゼノの顔が面白かった?」
「ううん、違う。こっちの話し。ねえ、ゼノ」
「ん?」
「貴方の知ってる白狼の話し、聞かせて」

 目をパチパチと瞬かせて此方を見るゼノに、ゼノがいいならだけど、と少し遠慮気味になる。別に嫌じゃねーぜ、と笑うとゼノは昔話を始めた。

 昔々、あるところに……。
 そう言って紡がれた物語は、緋龍王の生きた時代のことだった。緋龍王を護らんとすべく龍の血を分け与えられた人間が、四龍の代わりに緋龍王、獣神白狼と共に生きた話だ。緋龍王亡き後、緋龍城を治めていたのは黄龍と白狼。

 二人を神官のように、王たちが天命を乞う。

 しかし、彼らに天の声は聞こえない。
 白狼も人間となり緋龍王と共に生きようとしたからだ。

「それから俺は神官の真似事してたんだけど、やっぱり体は頑丈でさ。不老不死って奴」
「そう、だったの……」

 誰かを護ることは出来ても、死んでいった者を見送ることしか出来ない。
 人間と同じように死ねない苦しみを背負い続けていたんだと、ずっと彼がそうしてきたことに、は何も言えなかった。白狼が亡くなった時も、彼は泣いて見送るしか出来なかった。

 (おぬしが泣いてどうする)

 ボロボロと涙を流すに、白狼は心の中で呆れたように言うが、その声はとても優しく温かかった。ゼノも彼女を見て驚くと、俺なにか嫌なこと言ったか!?と慌てふためく。

「ごめっ…違うの、そうじゃなくて…っ。ヤダなぁ、最近涙脆くなっちゃって……」

 ふっと笑いゼノがの頭を優しく撫でる。

「俺、白狼が死んだ時すっげぇ泣いた。でも、白狼が人として生きて、満足して逝ったんならそれでいい。アイツ、ずっと緋龍のこと好きだったみたいだし」
「へっ?」

 おいばかっ!との中で慌てふためく白狼の声に、泣いていたはずのはキョトンとする。が、すぐにニヤニヤすると「実は今、白狼が此処にいるんだよねえ」と自身の胸を指差す。ゼノも、へっ?と目を点にしていたが、本当か!?と喜んでいた。

 後に退けなくなったのか、白狼がゼノの前に姿を現すと、なんとまぁ不機嫌な顔をしていた。

『……これだから人間の小娘は好かぬ』

 白狼の登場にゼノが喜んで抱き付くと、まあまあとは白狼の不機嫌を宥める。

「えー!なんでなんで!?なんで白狼が此処にいんだよー!」
『この小娘の我儘に付き合ってるだけだ……フン』
「四龍が集まったら役目終えて消えるんじゃなかったのか?」
『そうだった。そうするつもりだった!だが、』

 白狼はに視線を向けると、この者の行く末を見たくなった、そう言って満足したのか尻尾を左右にゆさゆさと揺らしていた。こういうところは犬と変わらないんだよなあと感情が丸見えですよ、と心の中でツッコミながら白狼の言葉はにとって嬉しいものだった。

「ま、ゼノは楽しく旅が出来ればそれでいいかなー」
「私は……」

 ここ最近、は考えていた。
 力を貸してくれると言った白狼を有効利用する方法。

 白狼自身の能力を聞いた時、彼女は影に溶け込み敵の内情を探ることも出来ると言っていた。しかし、それはハナコが近くに居て出来ることであり、遠い離れた場所は無理とのこと。

「私、敵陣の内情を探る密偵役になろうと思う」
『言うと思った……ハァ』
「そんなに溜息吐かないでよ、白狼」

 ハハハ、と苦笑するにゼノはいいんじゃねーの?と言った。反対されることを覚悟で言ったつもりだったが、彼は逆に好意的だった。

「今は四龍も集まった。白狼なら四龍が本気出せばどうなるか分かってるだろ?」
『ああ……城一つ落とすぐらい容易いだろうな』
「……へ、へえ」

 説得力のある二人の会話に、呆然とした返事しか出来なかったは乾いた笑いだけが出る。

「ま、俺はいいんだけど他の奴らが何ていうか楽しみだな」
「うん、なんていうか覚悟は出来てる」

 次の日、ゼノたちにした密偵役の話しをヨナたちにしたところ、覚悟した通り返ってきたのは反対意見だけだった。