「私、あなた達の船長さんと話してみたい」

 ジェハが海賊であり、ハクとを欲しがっている事を聞いてヨナはそう口にする。何を言ってるんだと周りがポカンとする中、ジェハが二人をくれるの?と聞くが、ヨナはあげないと即答。
 ヨナはジェハに会う前に、役人に殺された子供を見たことを話し始めた。そして、そんな町の人たちを苦しめるヤン・クムジが許せない。しかし、それ以上に何も出来なかった自分が許せないと悔しそうに表情を歪めた。
 クムジと闘う海賊に協力出来ないかと、ヨナの話しを聞いていたジェハは、彼女に協力するかは別として船長に会わせてあげると言った。海賊側も今は一刻も早く仲間が欲しいところだ。クムジを討つという点では利害の一致がある。

「明日、僕らの船においで」

 ジェハはそう言って空高く跳ぶと消えていった。


 その日の夜、夕飯の準備をしていたユンが驚かせないでよねまったく、と相談も無しに決めてしまったヨナに対し言及する。ヨナもユンたちに相談しなかったことを謝り、それでも彼女の決意は固かった。

「相手は海賊だよ。乱暴されたらどーすんのさ」
「これは私の独断だから、ユンはお留守番してて」

 彼女なりの気遣いなのだろうが、ユンは馬鹿にしないでよね!と言い、彼もヨナに協力すると言った。勿論、会話を聞いていたキジャとシンアも同意見だ。も主様が行くならお供します、と微笑むが横からハクにアホかと突っ込まれる。

「お前の場合は取引材料みてぇなもんだから強制参加だっつの」
「あっ、そうか。だったらハクも同じだね」
「分かってるっつーの。けど無理はすんじゃねーぞ、ここ最近のお前見てっと危なっかしいし」

 ヨナたちも同じようにを心配し、体調が悪くなったら必ず戦線離脱してねと言う。それは武人として…いや、主君をお護りする獣神として如何なものか。は目に焔を灯すとヨナの両手を強く握った。

「白狼一族の名に恥じぬよう主様をお護り致しますッ!!」
「へっ?」

 変なスイッチが入ってしまったと、ハクは呆れるのだった。







 次の日、キジャと約束した通り、ヨナ一行は海賊船へと乗り込んだ。そこでギガン船長と対面し、まずは全員の力量を見たいという事で全船員を相手に闘うことになった。結果は言わずもがなハクたちの圧勝で終わる。服の汚れを払っているにギガン船長が声を掛けると、中々強いじゃないかと期待以上の成果を見せた彼女を褒めた。ジェハもに対し、ここまで強いなんてねえと彼女に向かってウィンクを飛ばすが、この前と同じように手の平でベシッと叩き落される。

「おい…、あの変態に気に入られてんのかよ」
「いや、知らない。なんか……ハエみたいなのを飛ばしてくる」
「ハエじゃなくてハートだから…!!」

 ハク、、ジェハがわちゃわちゃと騒がしくしていると、次は戦闘要員とは別でヨナやユンに何が出来るか問われる。ユンは特技を幾つか挙げた後、弓が使えると言う。ヨナも弓が使えると答えようとしたが考え直す。彼女の答え次第で仲間と認めてもらえるか決まるのだ。

 何も言わないヨナに痺れを切らしたギガン船長が、ここで何も出来ない奴は足手まといだ帰れと厳しく現実を突きつける。しかし、ヨナが役人に殺された子供を思い浮かべると、先程のか弱き少女と見違える程の真剣な眼差しをギガン船長に向けた。

「ギガン船長の言う通りだわ。けど―――私にも引けない理由がある」

 いい眼をしてるじゃないか、とギガン船長がフッと微笑む。仲間として信頼に足る人間か見定めるために一仕事してもらおうじゃないかと、ヨナに雲隠れ岬にある千樹草を採ってくるよう言った。断崖絶壁でその中腹にあるらしく、それでも女一人で行くのは危険な場所。ヨナだけが行くことを条件にし、その案内役をジェハに頼むとヨナを抱えて空高く跳んだ。

「……すまないが、私も主様の様子を見に行っても構わないだろうか?」
「あぁ、問題ないよ。けど、少しでもあの子を助けるようなことをしたら……分かってるね?」
「分かった」
「案内役は要るかい?」
「いらない。ジェハの匂いを辿れば分かる」

 なんだいそれは、とギガン船長が静かに驚いている横で、は心の中でジェハの匂いをまだ微かに嗅ぎ分けれてる、と白狼の力がどれだけ残っているか確認した。

 表情に出してはいなかったが、ヨナを一番心配しているのはだった。その雲隠れ岬のことを知っていたからだ。幼い頃に旅の話しを聞かせてくれた父が話していた。一般人が近付こうものなら、死を覚悟しなければならないと。
 天候によって海がどれだけ危険な場所になるか。手を出さない事を条件とされていたが、いざとなれば手を出す事になる。こんな所で一国の皇女を失う訳にいかない。

 雲隠れ岬に辿り着き、仲間の為に千樹草を摘みに行くヨナの姿を確認すると、その後方にジェハが付いていることが分かった。彼なりにヨナのことを心配してるのだろう。フッと笑うは空気が湿気てきたことに気付く。風も来た時より強くなっていた。

「主様……、どうか成し遂げて帰って来て下さい」

 彼女を信じ、その場でそっと目を閉じたはヨナの無事を祈った。




 遅れてやってきたハク達が、ヨナはどうなったか聞く。まだ戻って来ないと言いシンアに確認させると彼は岬を指差した。一時はどうなるかと思ったが、ヨナが無事帰ってきたことで全員喜んだ。
 千樹草を採ってきたことを報告したヨナは、ジェハに助けてもらったとも口にした。だからもう一度一人で行って来るという彼女の顔に迷いはないが、手足の震えまでは隠すことが出来なかった。

 すると、ギガン船長が高らかに笑い、だいぶ泣いたんだろうと彼女の目元が赤いことを指摘した。目に潮水が入っただけだと言い返すヨナに、根性があるじゃないかと目元を綻ばせた。

「お前みたいなヤツは、窮地に立たされても決して仲間を裏切らない。そういう馬鹿は嫌いじゃないよ、舟に乗りな」
「え……」
「主様、合格みたいですよ。良かったですね」

 すると、ヨナは嬉しさのあまりに抱き付く。そして二人を囲うようにして船員たちが、良かったねヨナちゃん!と喜んでいた。と、流れるようにさり気無く二人に年齢やら恋人がいるのか聞く船員に、キジャが貴様ら離れろー!とプンプン怒っていた。

 安堵の溜息を吐くハクに、囲まれていたはずのがスッと抜けてやって来ると、ただ一言「無事でよかったね」と呟いた。これじゃ命がいくつあっても足りねぇよと呆れたように笑うハクに、確かになと彼女も笑った。