洗濯板でゴシゴシと洗濯物を洗っていくハクの横で、キジャとが洗い終った衣類を吊るした縄に掛けていく。シンアは食料調達の狩り、ユンは先程見掛けた商人に塩を持ってお米と交換してもらいに行った。

 手伝いをしていたヨナに、弓の練習してきていいよとが声を掛けると、彼女は嬉しそうに森の中に入って行った。そう遠くない場所で練習しているのだろう、木に矢の刺さる音が聞こえる。

「さーて、私もそろそろ修行しよっかなー……あ、ユンおかえり」
「ただいま、ねえねえ商人にこんなの貰ったんだけど」

 そう言ってユンが見せたのは、二枚の鱗だった。ユンはそれを白龍の鱗だと言う。話しを聞いてた全員が一斉にキジャを見ると、ハクがお前何自分の鱗売りに出してんだよとツッコミを入れた。勿論、キジャもそんな事した覚えはないと怒る。

「これを身につけたらカタブツになるとか、右手だけデカブツになるとか?」
「え、なにそれ超欲しい」

 強くれるのならとがキジャの右手の鱗を剥ごうとする。イタイイタイと涙目になるキジャ、そして彼女の奇行を止める者などいない。むしろ外野からは、もっとやれーという声すらある。

「実はまさかの、恋が叶う鱗らしいよ」

 一瞬で沈黙するが、ハクとジェハが大爆笑した。

 龍の名を騙り商売にするなど不届き千万、と怒るキジャに対して、ジェハはどこか楽しそうに、こういうのは女の子が持つべきものだよね、と偶々近くに居たにスッとそれを渡そうとする―――が、ユンの、それホレ薬らしいよ発言にそのままスッと自分の手の中に収めるジェハ。

「なにかな、ハク」
「とぼけんな、今それをパクろうとしてただろ?」
「そうだ、そしてホレ薬とはなんだ!?」

 今度はキジャのピュア発言に、シーンとなった。
 ジェハがユンく〜んと名前を呼ぶと、ユンも分かっていたように商人から貰っていた、消費者の声が綴られたメモを読む。そしてホレ薬がどんな薬か知ったキジャは、だから何故白龍の鱗なのだ!とプンスカしていた。

「妙な薬があったもんだ、この国に」
「この分だと、緑龍の鱗も売ってそうだね」

 緑龍の鱗は一体どんな効能なんだろうな、とがクスクス笑っていると、ちゃんちょっと口開けてみてとジェハに言われ、あ、と反射的に開けてしまう。すると、鱗がポイッと彼女の口に放り込まれてしまった。
 ジェハ以外、全員が目を丸くしていると、ヨナがどうしたの?と戻ってきた。

「おいテメェ!!何やってんだ!?」
「何ってちゃんで試そうと思ってー」
「そうじゃねえよ!この変態いっぺんブッ殺すッ!」

 そんな二人を見ながら、砂糖菓子みたいに甘いな、と口の中で溶けた鱗の食レポをするだったが、突然胸が苦しくなった。上手く呼吸が出来なくなり膝を付いて苦しそうにするに、ヨナが駆け寄ると大丈夫!?と心配そうにの体を支える。

 意識を失ったを一度寝かせる為にハクが担ごうとヨナと交代した時、ん、とが小さく吐息を漏らすと目を開いた。

「………ッ!?」
「おっ、おい!何処行くんだ!」

 目を覚ましたは、ハクを見た途端急いでその場から逃げるように森の中へ逃げてしまった。全員が唖然として何が起こったんだ、と風の様に去って行ったの向かった森を見て思うのだった。







 森へ逃げたは、川のある所まで行くと思い切り頭から水を被った。体が熱くて、疼いて、どうしようもないのだ。ヨナの手に渡らなくて良かったと思うのは、自分が毒味の役割を果たせたからだろう。

 体の火照りを冷ます為に川に飛び込んだというのに、益々体が熱くなっていく。

「おいっ!!大丈夫か!?変な毒でも……」

 やっとを見付けたハクは、彼女の今の姿を見て、ごくりと喉を鳴らした。

 振り返った彼女の頬は紅を差したように火照り、金色の瞳は不安そうに涙を溜めていたのだ。塗れた衣服から素肌が浮かび、その姿は艶めかしかった。こんな姿を他のやつに見せてたまるか、とハクも川に入りざばざばと水音を立てながら彼女に駆け寄った。同時に、も彼から逃げるように覚束無い足取りで後退ろうとする。

「おい…っ、逃げんな!」
「や、やだ……今来ない、で…ッ」

 これが本当に毒だったらどうすんだとハクが叫ぶ。
 しかし彼女は違うと首を左右に振ると、これ以上近付いたらハクに何をするか分からないと叫んだ。

「なにかって……なんだよ」
「わ、わから、ない……ッ、でも、なんか……ハク見てると、苦しい」
「俺も苦しいよ」
「えっ」

 ハクは一気にと距離を詰めると、逃げんなよと腕を掴み自分の胸へと引き寄せた。腕の中で暴れる彼女を、ぎゅっと力を入れて抱き締めると次第には大人しくなる。

「別に、になら何されたって構わねえよ…」
「な、んで…っん」

 の唇に温かなモノが触れ、これ以上何も喋るなと口を塞がれた。口の端から酸素を求めるように何度も口を離そうとするが、後頭部にハクの手が回されて、まだ足りないと求められる。
 苦しくて、息をするのもやっとで、いっぱい涙が溢れてきて。

「今のお前、最高にソソる」
「な、に…っ、ぁ」

 ハクは彼女をお姫様抱っこすると、川から上がり茂みの中へ入ると、そっとをその場に降ろした。

「なあ、その苦しいってやつ、ホレ薬のせいかもしんねーけど……少しだけ、お前のことを独り占めしてたい」

 熱の籠った視線は、今のにはまるで甘美な毒だった。
 ホレ薬じゃなくたって、ハクを愛してると、そう心の中で呟く。

「少しだけで……いい、の…?」

 苦しそうにしながらも、煽情的な笑みを向ける
 それはハクにとって充分過ぎる言葉だった。





 その夜、晩酌をしていたハクとジェハは、薬を飲んだ後のの事を話していた。薬の抜けきったは疲れてしまったのか、大事を取ってヨナと同じ天蓋の中で眠っている。
 パチパチと鳴る焚火を見詰めながら、そんなハクをジェハはニッコリしながら見ていた。

「……で、抱けなかった、と」
「うっせーよ……」

 ハクが彼女を追って、そして抱こうとしたところにタイミング良く、アオことプッキューが現れ、空気が一気におかしな方向へといってしまったらしい。
 肩を落とすハクに、ドンマイ、と声を掛けるしかないジェハだったが、まあホレ薬のせいにして抱くなんて、男らしくないよねと苦笑する。確かに、プッキューが現れた後のハクは同じことを思っていた。

 彼女の本当の気持ちを無視して抱いたとしても、彼女も自分もいい気分はしないだろう、と。

 高華の雷獣も恋に悩む普通の少年なんだなあ、とジェハは思うのだった。