ジェハが町で掴んだ情報は、作戦決行日を確かなものにさせる。
そして、売買する人間を集める店を見付けたとも言う。
そこは表向きでは、女性に割のいい仕事を提供しており、高く売れそうな女を搬送する為の場所として隠蔽している。人に頼んで店主に「ここで働きたいという美女がいるが、いつまで募集している」と聞いてもらった所、「明後日、昼まで」と答えたらしい。
三日後とも考えらえるが、クムジは欲深い男なので良い商品があるならギリギリまで待つだろう。
「船を動かすなら人目の少ない夜を選ぶだろうね……」
がそう言い船の柱に背を預けると腕組みをしギガン船長を見た。
「……しかし何時か分かっても、どの船に女が乗せられてるか分からないねえ」
「内側から……女の人たちが乗った船の内側から、花火のようなものを打ち上げれば、女の人達を少しでも早く救出出来るかしら?」
ヨナの提案に確かにそうだが、それは一体誰がするんだいとギガン船長がヨナに問う。
あぁ、やっぱりこうなってしまったか、と小さく息を漏らしたも一つの作戦としてヨナと同じ考えしていた。
「私が。私が人身売買の収容所に潜入して、船から花火を打ち上げます」
その場にいたとギガン船長以外、全員がハ?と目を点にさせた。あまりにも危険すぎると全員が反対する中、だけはヨナの味方をした。確かに危険ではあるが、時間も迫ってる以上、他に何か良い作戦を思い付く奴はいるのかと花子が問う。
ヨナと同じように自分も同じことを考えていたとが彼らを見ると、じゃあお前も行くつもりかよとハクが鋭く刺すような言い方をする。これは頭脳戦でもある為、ヨナ一人では行かせないとも同行すると言った。
ハクが小さな花火で相手に気付かせるのは困難だろうと言うが、がシンアの名前を呼ぶと、彼の目があると答えた。
「だったら俺も行く!戦闘は無理だけど、頭脳戦だったら俺が必要なんじゃないの!?」
ユンの申し出に、ギガン船長も彼の見た目が美少年だったので許可を出すと三人で潜入することになった。他にもハクやキジャ、ジェハも参加しようとするが、さすがに大男は無理だろうとギガン船長にきっぱりと却下されるのだった。
その夜、が一人になった時、ハクが現れ人気の無いところへ連れて行くと、ジッと見下ろし「どういうつもりだ」と冷たく言い放った。それは昼間に話した潜入作戦のことだろうと思い、何が?と至って普通の態度でハクを見上げる。そこが彼の癇に障ったのか、ドンッと壁に押し付けられた。ヨナを連れて行くことがそんなに悪い事なのかとが口にすると、ハクはそうじゃないと言いの首筋に顔を埋めた。
「……のことが、心配なんだ」
「ハク……?」
彼の態度とは裏腹に、声はとても弱々しかった。
「……ごめんハク」
「なにが」
「ここまで心配してくれてるって思ってなかった」
「好きな女のことぐらい普通は心配すんだろ」
「そんなもん?」
「そんなもん」
ハクは顔を上げるとを真剣な眼差しで見下ろす。
「必ず生きて帰って来い」
「……分かってる」
は小さく笑うとハクを見上げて、襟元を掴むと引き寄せた。瞬間、鼻先が当たる距離で顔を近付けられ、ハクは彼女の長い睫毛や綺麗な金色の瞳に思わずドキッとする。
思いもよらない彼女の行動にハクが固まったままでいると、戻ったら続きをしてやる、と言いハクから離れ逃げるようには立ち去った。
「えっ…続きって、なんだ……っ!?」
つまり、そういうことなのか!?と頭の中がパニックになりながらハクも船へと戻るのだった。
◇
次の日、町で買い揃えた女性用の綺麗なお召し物を着た三人が皆にその姿をお披露目する。ヨナは可愛らしく、ユンは美少年さながら美少女へと変貌。そしては、普段から動きやすい恰好ばかりしていたので女性の服装について良く分からず、ヨナとユンの見立ての下、綺麗に着飾ってもらえた。
「ねえ……ハク」
「んだよ変態野郎」
「うん、その言い方は美しくないけど、今はそれどころじゃないんだ。気付いてるかい、キミ」
「なにが」
「美人だと思ってたけど、ああいう恰好させると絶世の美女じゃないか……」
「あ?」
「ちゃんの事だよ。キミ分かってて話し反らしてるでしょ」
「………チッ」
確かにを見た瞬間、ハクは色んな意味で言葉を失っていた。馬子にも衣裳かと思った彼女が、こうも変わってしまうのかと。変な虫がつく絶対つく、と隣のジェハを見ながら思っていると、予想通りジェハはに駆け寄ると早速アプローチを始めていた。
「いやぁ驚いたよ。会った時から美人だと思ってたけど、こんなにも変わっちゃうなんて……これじゃ何処かに閉じ込めたくなっちゃうね。悪い虫が付かない様に」
「それはテメェだ変態」
ジェハの首根っこを引っ掴むと船からぽいっと投げ捨てるハクに、周囲の者たちは笑っていた。なんだ私は口説かれていたのかと今更ながら気付くに、ちょっとは警戒心持てとハクが説教を始めると、嗚呼いつものやつだとが両手で耳を塞ぐ。
「なぁに耳塞いでんだテメェ…」
「だってハク、うるさい」
「そうよハク!こんなに可愛く着飾ったに感想の一つも言えないの!?」
ハクの怒る理由が分かっていないヨナはを庇うようにして言うが、いやそうじゃない、と周囲の者は一斉に心の中でツッコミを入れた。突如、シーンとなってしまった甲板で、ハクはゴホンッと咳払いするとをチラッと見ると片手で後ろ髪を掻いた。
「あー…その、だな……キレ――――」
「、きれい」
ハクが褒めると思われた瞬間、その言葉を遮ったのはシンアだった。そんな彼に続くように、そうだろうそうだろう!とキジャも嬉しそうにはしゃぐ姿を見て、その場で固まったままのハクにドンマイと心の中で応援したユンたちだった。