ヨナが無事仲間入りした後、戦いに必要なモノや食料の積み込み作業がすぐに始まった。雲隠れ岬から無事戻ってきたヨナの手が傷だらけなので、治療するためにがユンから鞄を借りて手に刺さっている棘を取り除いていく。

「イタッ……」
「少しだけ辛抱お願いします…」
「分かってる…、ごめんね。貴女には心配掛けてばかりだわ」
「え?」

 だって心配して一番に来てくれたんでしょ、とヨナは目元を綻ばせるとを見た。そのことは誰から聞いたんですか?と問えばハクだという。また余計なことを言ったハクにあとで文句言ってやろと考えるに、まるで私の姉上のようねとヨナが笑った。

「姉上だなんて、そんな……。私はまだまだ未熟者ですっ」
「あはは、ってばカワイイ。ねえ、これから私の事をヨナって呼んでくれない?」
「却下デス」
「えぇーっ!?どうしてどうしてぇ!?」

 ヨナの手にはちみつを少し塗っていたに、その手でポカポカと叩くと絶対に呼んでー!と上目遣いで頬を真っ赤にしぷくーっと膨らませていた。その顔が頬袋いっぱいに食べ物を詰めたアオに似ていたので、思わずは噴き出して笑った。

「なっ、なによ!?なんで笑うのよー!ばかばかっ!」
「す、すみません…だって、ヨナが変な顔するから」

 すると、ポカポカと叩いていた手を止めてヨナはの顔を見ると、パァと明るい笑顔を見せた。絶対に呼んでくれないと思っていた自分の名前をに呼んでもらえたからだ。

「私ね、母上が亡くなって心の片隅で寂しさを感じていたの。姉様がいたら、こんな感じなんだろうなぁ、って……」
「……ヨナの思うような姉として振舞えるか分かりませんが、こんな私を家族の様に思って下さるのなら、妹を護るのは姉の役目ですね」
「違うわ!姉を支えるのが妹の役目ですもの!」
「いえ、私がヨナを――――」
「おーい、お前ら話は済んだかー」

 遠くから二人の様子を見ていたハクが声を掛けると、二人は今行く!と嬉しそうに返事をした。 







 ユンが阿波で獲れた海鮮をふんだんに使った鍋を全員に振舞い、それを美味しいと言って嬉しそうに食べていた。久しぶりに海の料理を食べたなぁと食べ終わった食器を片すと、舟から阿波の港方面を見ていたシンアが何か異変に気付いた。
 港に船が集まっており、それが七隻いると教えてくれた。それはクムジが大きな取引をする為だろうと、すぐさま作戦会議が開かれることになった。

 船内でギガン船長の作戦内容を話し始める。
 作戦内容はこうだ。近々大規模な人身売買が戒帝国で行われる。その為、港でやり合っては周辺住人にも被害が及ぶ為、クムジの船を襲うなら戒帝国と阿波の真ん中の海域と言い、広げていた地図を煙管で指した。
 
「問題は、いつ何時結構するか、という事と……集められた女の子たちがどの船に乗っているかだね」
「女性たちを巻き添えにすることなく、その船だけを襲う必要があるってことか」

 クムジは売買に使う人間をそのまま人質として利用する可能性が大いにある。かといって、手をこまねいていては戒帝国に女性たちが渡ってしまう。
 船員たちは今回の取引が大きなものならクムジ本人も出てくるので、彼だけを探し出してふんじばればいいだろうと口々にして、ハク達を心強い味方だと言った。確かに心強いかもしれないが、四龍は兎も角ハクは一応人間である。まあ化け物みたいに強いのだけども、とは心の中で思った。

「……何にしろ、もう少し情報が必要だね」

 するとギガン船長は壁に掛けてあった短剣を手にすると、私らにとってもこれは絶好の機会だと言い、更に言葉を続ける。

「十数年、この阿波の人間を虐げ腐った町にしたヤン・クムジと役人を何としてもぶちのめし、この町に自由を取り戻す」

 短剣を鞘から引き抜くと、ダンッと切っ先を机に突き立てた。

「今度は私も剣を取ろう。最後まで私についてきな、小僧共」
「「「「おうっ!!」」」」

 もう、これ以上の犠牲は出したくない、そして町の平和を取り戻すため、ギガン船長の思いを知る船員たちが気合を入れて声を上げた。


 次の日、それぞれが決戦に備えてやるべきことを始める。キジャは荷物運び、ハクとシンアは船員たちに武術を教え、ユンは怪我人の治療に当たる。ヨナは何か自分に出来ることはないかと探してみるが、それぞれが既に担当している様子で中々声を掛けれずにいた。

「ヨナ、どうしましたか?」
…っ!私にも何か仕事を頂戴!」
「仕事、ですか…。そうですねえ」

 すると、そそくさと二人の前から逃げようとするジェハをが捕まえると、おい何処に行くと目をギラ付かせて詰め寄った。

「あー…えーっと……情報収集に町に行こうかなー……なーんて…」
「ヨナを連れてって欲しい」
「えぇっ!?」
「本当!?ありがとうジェハ!」

 まだOKと言っていないのに、一緒に連れてってくれるとヨナは喜ぶ。まあそういう事だ、とがジェハに諦めるよう肩をぽんっと叩くと、仕方なくヨナを連れて町へ出掛けることになった。

「あ、そうだちゃん」
「なに?」
「キミのお願いを聞いてあげたんだから、あとで僕にご褒美ちょーだいね」
「はっ?」

 の返事を聞かずにジェハがヨナを連れて空高く跳んでいくと、ご褒美ってなに…とその場に一人ポツンと佇むのだった。


 自分も何か出来ることを探そうと周りを見渡していると、ハクがこっち手伝ってくれと声を掛けて来た。なんだ?と駆け寄った途端、ポイっと木刀を投げ渡される。自分も船員たちに何か特訓してやればいいのかと問うが、ハクはそうではないと言った。

「俺との模擬戦を見てみたいっつーからさ」
「は?誰が?」
「コイツらが」

 コイツ等と指差したのは先程までハクが修行を付けていた船員たちだ。キジャでは駄目なのかと聞くと、久しぶりにお前と闘いたくなったとハクは言った。そういえば城を出てから二人で剣を交えてない、と言われて気付いたは二つ返事で剣を構えた。

「お前、最近訛ってんだろ。動きが鈍くなってたぜ」

 嗚呼、気付いていたのか…と、ハクの勘の良さは昔からキライだとは思った。

「だから何?私はハクに負ける気しない」
「あぁ、そうかもな。でもそれは動きの速さだけだ」

 力でお前に負けたことはねぇ!と言い力強い一撃をに浴びせるが、彼女も簡単にやられるわけないでしょ、と木刀で受け止めた。たった一撃やり合っただけの二人に、周囲の者は息を飲むと、一体どっちが勝つんだと各々が呟く。

 獣神の力に頼ってハクに勝っても、それは勝利ではない。ハクは努力の天才だ、それを近くで見てきただから彼に今の自分を本気でぶつけなければ駄目だと思った。

 一旦距離を取り、両者が睨み合うように相手の動きを待つ。そして先に動いたのはだった。持ち前の速さを活かして一気に距離を詰めると、木刀の持ち手部分でハクの脇腹を殴ろうとする。しかし以前に同じパターンでやられていたハクは、覚えていたらしく回避するとへへっと笑い、同じ手には引っ掛からねーよと言った。

「次は俺の番だ!」

 ハクも持ち前の足の長さを活かすと一気にと距離を詰め、もらった!と足払いをする。それをひょいっと躱したがその場に着地すると、着地地点の小石を踏んでしまいバランスを崩した。あっ、と小さな声を漏らすと前のめりで倒れそうになり、直ぐに気付いたハクがを支えようと彼女の下に滑り込みクッションの役割をした。

 見事に勢いをそのままにハクへ向かって倒れ込んだは、いたた……と言いながら下敷きになっているハクを見ると、体勢はそのままに申し訳なさそうに謝る。しかし、彼は何かを確かめるように黙ったままを見た後、スッと視線を彼女の胸元に移した。

「……お前、やっぱデケェな」
「…ッ!?」

 フニフニとさせるハクの両手は彼女の胸を鷲掴みにしており、ラッキースケベだ!と周囲にいた全員が心の中で叫び羨ましがる。

 どうやら下敷きになり彼女を助けたつもりが、ハクには嬉しい誤算となった。

 今までに見た事のないぐらい顔を真っ赤にしたが、恥ずかしさ沸騰しそうになりハクの頬をビンタするとキジャの後ろに隠れる。そしてキジャはを護るようにハクへ威嚇した。

 町から戻ってきたジェハが、ハクのラッキースケベの話しを船員から聞くと、直ぐに駆け寄りハクに詳しく!との胸の詳細を聞くのだった。