色町に居たことがキジャの耳に入ると、何故かハクだけが怒られていた。なんで俺ばっかりと踏んだり蹴ったりな状況に、がそんな二人にそっとフォローを入れる。この港町について詳しそうな人が居たから情報提供してもらうのに此処を選ぶしかなかった、と。

 それを聞いて一応納得してくれたユンとキジャだったが、町に入ってからヨナが「ハクにだって女の子と遊びたい時ぐらいあるわよ」とポワワンとした表情で言うと、ハクは「俺の恋路を応援してくれるんじゃなかったんですか」と呆れていた。

 町を歩いているとハクが突然、の腕を引っ張った。

「……ッ!?」
「静かに」

 突然ハクに腕を引かれて建物の間に連れて行かれたは、いきなりどうしたと小声でハクに問う。どうやら役人が近くを通ったらしく、なるべく回避していきたいと説明した。ヨナたちも同じように隠れており、ハクが隠れたので彼女たちも思わず反射で隠れたらしい。
 役人が通り過ぎるのを確認したあと、ふう、と溜息を吐いていたハクは、隠れる為とは言え狭い路地にを連れ込んでいる状況に、あっと声を漏らす。

「……ハク?もう役人は行ったのか?」
「あ、あぁ。わりぃ」
「いや、助かった。ありがとう」

 ハクにお礼を言うとスッと明るみに出ては神妙な顔付きになった。ハクに気付けたことが、自分は気付けなかった。警戒心の違いだろうかと独り言ちるに、どうしたとハクが声を掛けるが彼女は首を振って何でもないと笑った。


 全員が建物の影から出てくると、この面子じゃ目立つから用事が済んだらさっさと町を出ようとユンが言った。緑龍の気配が阿波の町にある以上、彼を見付けてから去りたいところだが、もう一度キジャに尋ねると、もう気配を感じないという。
 緑龍は天高く跳ぶことのできる龍の足を持っている。彼の気配がこの町からしているのは分かるが、此方の気配を察知すると逃げてしまう。こう易々と移動されては捕まえるのも一苦労しそうだと、新たに作戦を練ろうとした時、昨日役人から助けた娘がハクとに気付いて声を掛けにきた。

「……あれ、アンタ昨日の」
「あれから大丈夫だった?」
「はい!昨日は有難うございました」

 昨日のことを心配しているに、彼女は大丈夫ですと笑う。

「アンタ、こんな役人うろつく場所であぶねぇだろーが」
「仕方ありません。私、此処で仕事をしてますので……」
「しかしー…――――」

 ハクが続きを言おうとしてやめる。この女との関係が気になったヨナ、ユン、キジャがジーっとハクを見ていた。場所を変えて話そうと提案し、人気の少なそうな茶屋へ入ることになった。

 まずは気になるであろう娘との関係から始まり、役人が娘に手荒な真似をしていたので、役人を殴って蹴ったこと説明した。勿論、驚かないはずもなくユンは声をあげるが、人助けなのだから仕方ないわねとヨナは納得した。
 白昼堂々馬鹿な真似をする役人についてユンが尋ねると、店で暴れたり目を付けた娘を連れ去ったりと、役人の怒りを買わない様に生活するのがやっとだと答えた。それに対して、どうして?とヨナが聞くとは「ヤン・クムジ」と一人の男の名を出し、阿波一帯の領主だと説明する。彼の息が掛かった役人たちが町の人達を苦しめているのだろう、と。

「私たちは商売の許可を得る代わりに、不当に高い税を納めてるんです。この町には不穏な噂もあるのですが、どうすることも出来ません……」
「通りで…、町の人たち元気が無いはずだわ」

 町を知らないヨナだからこそ、そういった空気を敏感に感じ取れるのだと、彼女の観察眼にハクももフッと笑みを零す。

「海賊は?」
「「海賊?」」

 ユンの一言にハクとの声が重なる。
 近くの海岸にそれっぽい船が溜まってると、別々で行動していた時のことを話してくれた。しかし、海賊が町の人たちに危害を加えた事はないと娘はいう。ユンが驚いた顔をしていると、船を襲うこともあるが、それはクムジの船だけらしい。







 その夜、阿波の海に一隻の船が港に入ろうとしていた。
 船の甲板で話す彼らはヤン・クムジの息が掛かった役人たちで、見張りをしていた男が運び入れる荷物の中身は何かと問う。今更何を言っているんだと、それが薬物だと明かすと見張りの男はハハッと静かに笑い「それは悪いなぁ」と言った。月明りが逆光となり見張りの男の顔は見えなかったが、彼の雰囲気が変だと気付く。

「それは…、美しくない」

 本来見張りをしている筈の役人が、ひゅっと見張り台から倒れるように落ちて来ると、その男には縄が掛けられ吊るされていることに気付く。なんだこれは、と驚く役人たちに声の主は自己紹介をする。

「自己紹介が遅れたねぇ。一時前から見張りを交代していた―――美しき、新入りだよ」

 月明りに照らされならが酒を嗜む男―――緑龍の青年、ジェハだった。

 彼が自己紹介を終えると同時に、海賊船がクムジの船へ横付けすると中年の女―――ギガン船長が合図を出す。

「沈めな、小僧ども」

 彼女の声で一斉に船に乗り移る海賊たちは、役人たちに襲い掛かる。しかし彼らは傷付けることはしても人を殺す事をしない。それはギガン船長の言いつけでもあり、船員は元漁師の男たちなので、いつか彼らが漁師に戻ったとき人殺しの業を背負わせたくないというものだった。
 ジェハは天高く跳び、手に持った数本のクナイを役人に放ち、床に張り付けにされた役人は動けなくなった。ジェハと共に戦っていた船員たちも役人たちを追い詰め、船内の麻薬を発見しギガン船長に報告すると船ごと燃やすように指示が下る。
 予定通り船を沈めることが出来た海賊一行は、姿を隠すようにいつもの停留所へ船を動かした。


 ボロボロになって帰還した船員たちがギガン船長に向かって、相手を殺さず戦うのは大変だと訴える。しかし彼女が彼らに人殺しの業を背負わせたくないと言えば、お母ちゃん…っ!と彼女の優しさに感動していた。
 そして彼らは口々にジェハと戦ってると頼りになって心強いと言う。ジェハにとっても、彼らは龍の足を持つジェハを気持ち悪がらず接し、その足をカッコイイと言い褒めてくれる大切な仲間だった。

 13年前、ジェハは里を飛び出し旅の末、ボロボロになりながら辿り着いたのが此処だった。彼が思い出に浸っていると、ギガン船長がクムジの人身売買の現場を突き止める為に、もう少し戦力が欲しいところだと話す。
 そしてジェハの脳裏にハクとが浮かぶと、強くて男前なのと、強くて美人なのがいるよ!と嬉しそうに言った。それを聞いたギガン船長は、至急捕獲!と即答。
 そしてジェハは、二人は誰かの護衛をしていた事も思い出す。彼は少しだけ考えるが、性格は前向きなのか、それとも自信家なのか、僕の口説きのテクならば必ず落とす!と明日になったら町に出て探しに行くことを決めた。

 一方、ハクとは嫌な予感を感じ取ったのか、ぶるっと身震いをさせるのだった。