青龍と一通り話した後、は追ってきた道をそのまま戻った。

 部屋の前で番をしているハクに声を掛けると、ヨナたちが青龍に会いに行ったという。中を覗けば誰一人居らず、此処に居るのは自分とハクだけかと一先ず座れそうな場所に腰を下ろした。
 横に立つハクを見上げ、ただいま、と言ってみれば、おう、と返事はそれだけ。なんだか素っ気ないなぁと苦笑するに、帰って来るの遅ぇよとハクは言う。

「……うん、そだね。遅くなった。青龍に会ってたの」
「そうか。で、何話したんだよ?」
「ヒミツ」
「はぁ?」

 何か青龍の情報でも教えてくれるのかと思っていたハクは、期待した最中が教えてくれず素っ頓狂な声が口から漏れた。いやいや、この流れは教える流れじゃなかったのかよと心の中でツッコミを入れていると、あの子は優しい子だよとポツリそれだけ言って青龍について話は終わった。

「……で、お前はどうすんだよ」
「何が?」
「姫さんはユンたちと一緒に行ったぞ。も行きたかったんじゃねーのか?」
「ははっ、なにそれ。別に私だって主様に付きっ切りな訳じゃないよ。あっちはキジャとユンがいるし、私の心配は一人ぼっちのハクが寂しい思いしてないか、かなぁ」
「べ、別に寂しかねーよッ」

 どうだか。そう言ってがハクを揶揄っていると、足下に微かな揺れを感じた。
 瞬間、それは大きな揺れとなり建物が崩壊しそうな程だった。

「な…ッ、ハク!!」
「俺は大丈夫だ!お前は俺に捕まれッ」

 こんな大きな揺れの中で変化することも出来ず、彼の言う通り手を伸ばすと服を掴む。するとハクは握られていた手を掴むと、の手を引いて走り出した。目指す先はヨナの行ったであろう隠し通路への入り口。
 しかし、崩れ落ちる瓦礫が行く手を阻み通路を塞いでしまった。地震がおさまり、ハクとは、ヨナやユン、キジャの安否を祈りながらも瓦礫を撤去していく。固く積み重なった岩は、小さいものならまだしも大きなものはビクともしない。

「…はあっ、はぁ……これは大き過ぎて動かない。どれだけ埋まってんの、これ!」
「知るかよ…ッ、早くこの壁を壊さねえと姫さんたちが…!」

 そんな二人を離れた場所から見ていた村人が、その埋まった壁の向こうに自分の息子が居ると言った。しかし、こちらも青龍を探しに向かった仲間が居ると伝えれば、バツの悪そうな顔をする。洗い浚い吐いて、家族や仲間を助け出す為に協力するようが彼らを叱咤すれば、ハクはつべこべ言わずさっさと吐けと叫んだ。
 家族の命が掛かって漸く此処の秘密を吐露し、埋まってしまった村人たちを助ける為に動いたのだった。

 程なくして、通路を塞いでいた岩が砕け、その先には同じように此方に向かって穴を掘っていたのか傷だらけの仲間と村人たちが居た。ハクとは真っ先にヨナへ駆け寄ると、無事でよかったと安心したように抱き付き笑った。


 青龍の城を出ると、同じように外に出ていた青龍が離れた場所に立っていた。これから青龍をどうするのかヨナに問えば、彼女は諦めきれないと言い青龍の説得を試みる。

「もう一度言うわ…一緒に行こう!貴方を連れて行きたい!」
「…俺は」
「私の前では、目を閉じなくていいの。貴方の力は本当に無差別に人を殺めるもの?アオがこんなに懐いているのに?」

 先代の名前を知っていたは、ヨナの口にしたアオが青龍の連れていたリスのことだと知る。なんか似合わないなぁとが笑っていると、その横でハクは何笑ってんだよ気持ちワリィと引いた目で見ていた。

 ヨナの言葉は青龍の心に響き、差し出された手を青龍が握り返すと綺麗な一筋の涙が彼の頬を伝った。







 道中、洞窟を掘るのに疲労困憊になっていたキジャが倒れてしまい、日陰に移動すると彼の体調を考えて一度休憩を取ることにした。彼の体調が落ち着いてきた頃、何処かに行っていた青龍が姿を見せると、手に持っていた何かをの目の前に差し出し、これ、と言葉を零した。

……これ」
「え?私にくれるの?」

 青龍に渡されたのは可愛らしい一輪の花だった。綺麗ね、と笑って受け取ると青龍は口元に微かな笑みを浮かべる。それを見ていて微笑ましく思うヨナとユンとキジャ。……が、そうも思わない男も一人いた。
 ハクの不貞腐れた態度にユンは不憫なやつだなぁと半笑いになっていると、ヨナがあの二人ってなんだか姉弟みたいに見えるわねと言う。確かに外見は少し似てる気がすると話しを聞いていたキジャがそう口にすると、ハクは全然似てねぇよと未だ不貞腐れた態度で言った。

「おい、貴様。さっきからその態度は何だ!」
「白蛇様は黙ってろ」
「ナニィ!?」

 またいつもの喧嘩が始まったと呆れるヨナとユンは、離れた所に居た青龍とが合流したところで「此処いらで寝る場所探そ」と全員に声を掛けた。キジャの体調を心配して青龍が滝のある泉まで来ると、被っていた毛皮だけ脱ぎ捨てそのまま飛び込んだ。身投げをしたとキジャが慌てていると、泉からひょっこり顔を出した青龍が岸に上がり持っていた魚をキジャに無言で見せる。

「……これを私に?」
「…………」

 寡黙過ぎる青龍は特に答えることはしなかったが、キジャは彼に感謝して魚を受け取ると、ヨナの声掛けのもと食事をすることになった。濡れたままでは風邪を引くからと焚火の前に青龍を呼ぼうとしたが、彼は毛皮を全身に纏い毛だるまになっていた。ハクもその様子を見て妖怪毛玉と称していたが、青龍はユンの作った食事を受け取ると一口食べて一瞬止まり、今度は物凄い速さで食べ始めた。

「ゆっくり食べないと喉に詰まっちゃうよ。ほら、水飲んで」
「……ん。ありが、と」

 から竹筒に入った飲み水を受け取ると、それも一気に飲み干した。

「ところで、何で私に花を摘んでくれたの?」
「……も昔、くれた、から」
「え?」
「だから……俺も、に、あげたかった」

 心優しき青龍は、きっと子供の頃から何一つ変わらず優しいまま成長したのだろうと微笑んだ。二人のところに来たヨナが青龍に寒くない?私の外套いる?と聞くと、彼はお礼を言うとその次に彼女を「ヨナ」と呼んだ。周囲はヨナの名前をあっさりと呼んだ青龍に驚愕するが、そんなことは当の本人には知らない事なのでそのまま体をゴロンと転がすと、ただの毛玉のようになったのだった。