(※仁義なきおじさんの闘い、おまけ話。付き合って一ヵ月ぐらい) 俺とちゃんが付き合っている事は、吉良牛と部署で一番の姉御肌である榮倉さんだった。男女の関係になったはいいが、正直デートとか何処行きたいかはちゃんに全て任せっきりだ。 だから、今回は俺の行きたい所に行きたい、というリクエストが出てしまい、飲みの席で吉良牛と榮倉さんに相談しながら頭を抱えている。 「……なあ、吉良牛」 「知らんもんは知らん。そんな目で俺を見るな」 「そんな目って…。用事がある時しか出掛けないし、日用品の買い足しぐらいじゃん。一人旅だってやんないのにさぁ」 「おい、榮倉。何とかしてやれよ」 「何で私……。門倉部長、しっかりして下さい」 「え?それだけ?」 彼女らしい一言に、吉良牛もお前って本当大雑把だよなと笑っていた。遠慮なく話す二人の関係が気になった時期があって、幼馴染みだって教えて貰った時は納得した。通りで仲がいいわけだなぁと。 ビールジョッキをゴクゴクと喉を鳴らしながら良い飲みっぷりを見せた後、俺をじっと見て口を開いた。 「何処か行きたい場所無いんですか?」 「んー……、ゆっくり出来る場所がいいかな。そんでジャズ流れてて、」 「それもう喫茶店でしょ」 「あー、そうかも。ちゃんと喫茶店で寛いでる時が一番好きなんだよねえ」 「喫茶店ねぇ…。カフェで良いなら、今流行りの猫カフェなんてどうですか?」 「猫カフェ、か」 確かに動物好きのちゃんが喜びそうな場所だ。動物園の時にウサギと戯れる彼女は非常に可愛かった。野良猫を見ると直ぐに駆け寄って嬉しそうに撫でたりしてさ。ふふ、と思い出し笑いをしていると隣の吉良牛から気持ち悪いと言われた。 「おい、榮倉。それじゃ門倉の行きたい場所じゃなくなるだろ」 「寛げるなら喫茶店もカフェも同じだと思うけど。門倉部長って動物嫌いでしたっけ?」 「普通ぐらい」 「じゃあ、決まりね。LINEに地図と店の情報送っておいたんで、あとで確認してください」 「仕事はやい」 仕事の早さは部署一だなあと感心してる俺の隣で、吉良牛はお前目が据わってんぞと彼女の持っていたビールジョッキを奪って飲み過ぎだとか説教を始めていた。君らホント良い関係だよね。 「おい門倉。今日はもうコイツ連れて帰るから、あとはゆっくりやっててくれ」 「おう、気を付けてな」 吉良牛の指差す先には、ぐでっとした榮倉さんが今にも寝そうになっていた。こんなに酒弱くなってたっけ、と最初の頃の彼女の酒豪具合を思い出す。まあ、俺には関係ないか。 二人を見送ると、俺は一人カウンター席で酒を飲み直す事にした。LINEに送ってもらった猫カフェ情報を眺めながら、HPにあった当店の猫なるものを見付けてぽちっと押してみる。すると、取り扱い猫と名前、そして写真が記載されていた。 「…へえ、色んな猫がいるもんだな。ハハ、これちゃんにそっくりだ」 おじさん特有の独り言を言いながらスマホを眺めていると、突然画面が切り替わり着信画面になる。慌てて相手の名前を見ずに出てしまい、やっちまったと思ったが声を聞いた瞬間、すぐに誰か分かって安心した。 「こんな時間にどうしたの?ちゃん」 『あ、えっと……特に用事は無いんですけど。今、どこですか?』 店の中で盛り上がる連中もいれば、しみじみと一人で飲んでる奴も居る。だが店の中は割かし騒がしく通話に音が入ってしまっているんだろうと、ちょっとまって、と耳と肩でスマホを固定すると財布から金を出して荷物を持つと店を出た。 「ごめん。さっきまで吉良牛たちと飲んでたんだ」 『そうだったんですね。じゃあ今日の晩御飯はもういらないですね』 「え?」 彼女が突然そんなことを言い出すので、俺は何がなんやら分からなかった。確か今日は用事があるからと定時になって直ぐに帰ったはずだ。だから俺は吉良牛たちを誘って飲みに出たんだが、まさかと思うけど……。 『実はこっそり門倉さんのお家にお邪魔してました。晩御飯を作ってみたんですけど、日持ちはすると思うので明日また食べて下さい』 「あっ、ちょっと待って!今から帰る!すぐ帰るから!わっ、イデデッ!!」 『えっ、門倉さん!?』 慌てて走り出そうとした瞬間に右足を捻ってしまった。いでで、と足首を押さえながら蹲っていると、大丈夫ですか?と心配そうな彼女の声が聞こえた。待っててね、と伝えて通話を切る。既に俺の酔いは醒めた。 そういえば俺んちに泊まる時もそうだったけど、必ず俺が一緒だったから忘れてた。彼女に家の合鍵渡してたんだったっけ。見た目はどうであれ、料理の腕を確実に上げてるちゃんの味付けは俺好みで本当に好きだし、そんな御馳走が待ってるって分かった途端俺はタクシーを引き留めて「急ぎで」と運転手に伝えた。 (おかえりなさい、という彼女の笑顔が出迎えてくれた、そんな夜) ※あとがき※ 折角なので、ちょっとしたその後の2人、的なやつです笑 同棲はしてないですが門倉さんから合鍵は貰っている様子。 何だかんだで可愛らしい恋愛をしてるっていう。 |