今日もいい天気だねって、アイツは笑う。
そんな彼女に、俺は何だそれ笑えねえなって言ってやった。
「今日でお別れだよ、百之助さん」
「いきなり過ぎるんだよ。もっと心の準備をさせろ」
「やだ、待ってあげない」
彼女の笑顔は最高に幸せそうだった。
好きな奴が出来たって言ってくれ。
お前が幸せならそれでいいんだ。
それなのに、お前は違う幸せを見ている。
「私ね、今でも貴方のことを愛してるの」
「じゃあ、」
ぶわっと強い風が吹くと、の白いワンピースがパタパタと揺れる。青空の下でその色はあまりにも酷く美しかった。その笑顔は俺だけのものだよな。その唇も、綺麗な指先も、腰も、脚も、全部、ぜんぶ、ゼンブ……。
「俺も、愛してるよ」
俺と彼女の間にはフェンスという境界線があった。一歩踏み出せば真っ逆様の彼女の足元を見る。今すぐ手を伸ばしてしまえば彼女を引き留めることは出来る。でも、彼女はそれを望んでなかった。
彼女の中には『永遠の愛』が存在していた。
何度か口にしていたことを、俺は忘れはしなかった。
家庭環境が最悪だった俺に手を差し伸べてくれたのはだった。百之助さんは良い子だねって言って、優しく撫でてくれた。優しいキスも、こんな俺に躊躇う事なくしてくれる。
「永遠の愛って、信じる?」
「……あったらいいな」
「あるよ」
「どこに」
「ここに」
そう言って俺に両手を広げて見せる彼女に、無意識にゆっくりと歩み寄っていた。彼女との距離は数センチ。
「百之助は、私を永遠に愛してくれる?」
「…あぁ、愛してるよ」
フェンスを乗り越えた俺に、彼女は微笑んだ。まるで彼女に誘われるように、そっと彼女の手を握る。瞬間、意識がハッキリとして握っていた手を離した。
するすると離れた彼女の手は空を描き、重力に逆らう事なく真っ逆様に堕ちていく。
彼女の永遠の愛は、俺には重過ぎる代物だった。
小さな点になった彼女は、真っ赤な絨毯に身を委ねるように寝転がっている。
都会の喧騒に掻き消されるように、俺はそっと屋上をあとにする。
(今となってはただ、沈黙)