私は何故か尾形さんのマンションで、ソファーに座って彼に肩を抱かれながら携帯画面を見させられている。数時間前、私は定時になり逃げるように会社から出たつもりだったけど、正面入り口で待ち伏せされて難なく捕まってしまった。
 そのまま引き摺られるように彼の住むマンションまで連行されたんだけど、特に体を重ねる等の行為は無かった。ソファーに座らされ、その隣に座ったかと思えば肩を抱き寄せられスマホ画面を見させられた。検索ワード「指輪」と入力して。

「ちょっと!何で肩を抱かれながら見なきゃいけないのよ!っていうか自分で決めたら?」
「俺の指輪だけじゃねぇよ。お前のも買う」
「…は?」
「男除けの指輪」
「あー、なるほどね。尾形さんっていう悪い虫から護ってもらえるわけですね。ありがたーい」
「ちげーよ」

 嫌味の一つでも言ったつもりだったけど、既に検索画面に集中している彼はサラッと流していた。本当に買うつもりなのだろうか。でも普通に検索画面は指輪ばっかりだし。あ、それ値段ヤバいからやめときなって。

「これにする」
「桁がおかしいって」
「そうか?」
「ほら、こっちの方が安いじゃん。特別な指輪でもないし、失くした時のこと考えたら安くて良かったって思うよ」
「へえ、その言い方だと過去に高い指輪でも失くしたって聞こえるが」
「へっ!?」

 しまった、と私は反射的に顔を背けた。
 尾形さんと付き合ってた頃にプレゼントしてもらった指輪を、別れた日に川に投げ捨てたなんて口が裂けても言えない。死んでも言えない。

 いや、別に。そう口ごもる私に、そういえば俺もお前に指輪プレゼントした事あったか、と尾形さんはフッと笑った。お前、指輪どうしてる?と聞かれたので大事に仕舞ってるよ、と笑顔を貼り付けて振り向けば、じゃあ明日つけてこいよと言われた。

 もう駄目だ、これ以上誤魔化しきれない。

「あ、いや……それはちょっと、無理かなぁ」
「なんで無理なんだよ」
「………」
「おい」
「すみません川に投げ捨てました」
「は?」

 失くした、とでも言われると思っていたのだろう。投げ捨てたという私の発言に、尾形さんは真顔のまま無言で見下ろしてきた。これは本当にヤバイと思ったところでどうにもならない訳で、本当にごめんなさいと小声になりながらも謝罪の弁を述べた。
 気持ちとしては本当に申し訳ないと思っているので、これ以上の言い訳なんてしないつもりで彼をチラッと見ると、何故か怒ることなく視線はスマホ画面に向いていた。あれ、と拍子抜けな展開に呆然としてた私は、少しだけ身を乗り出して彼のスマホ画面を覗き込む。既に注文完了画面になっていて、彼が何を購入したのか分からない。

「……何買ったの?」
「指輪」
「そう、へえ」

 本当に買っちゃったんだ、と私が遠い目になりながら呟けば三日後に届くと彼は言った。っていうか指輪のサイズ聞いてこなかったけど、それって私の分は無いってことでいいんだよね…。そういうことだよね、きっと。

「コーヒー飲むか?」
「あ、うん」

 答えた後に、あ、と私が声を漏らすと尾形さんは何だよと私の顔見た。

「……やっぱり帰る」
「は?」
「だって指輪の注文終わったんでしょ?じゃあ、私はもう必要無いと思って」
「そりゃねぇだろ」
「な、なにが、」

 最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。尾形に肩を強く押されてソファーに無理矢理転がされる。えっ、なに、とパニックを起こす私に馬乗りになった彼は口角を上げて笑った。

「もう少しゆっくりさせてやろうと思ったのに」
「な、ちょっと退いて」
「お仕置きの時間だ」
「えっ、やだ、んぅ」

 迫ってきた顔から逃れるように横に向けた顔は、顎を掴まれ無理矢理正面を向かされる。そのまま唇を重ねられ、開いた口の隙間から彼の舌が割り込んでくると、私の舌を直ぐに探り当て絡めた。今日は薬を盛られてないにしろ、あの時の煽情的な光景が脳裏を過ると、まるで脳内から犯されている気分になった。
 漏れる吐息が徐々に熱っぽくなっていく。彼を受け入れては駄目だともう一人の私が訴えるのに、またあの時の感覚が蘇るように体はぎゅう、と奥底から疼き始めた。

「んっ、お、が……、はっ、ン」
「折角、俺が買ってやった指輪なのに、なぁ?」
「ごめ、ん…っ」

 するりと尾形さんの右手が私のスカートの隙間を通り内太腿を撫でると、流れるように秘部へと宛がわれる。羞恥心から、やだ、と声を漏らす私に尾形さんは耳元で吐息を噴き掛けるように、もう湿ってるじゃねえか、と満足そうにくつくつ笑った。

 片手でストッキングを破られ、これ高かったのに、なんてことを考えてしまう私。これから何をされるか分かってるはずなのに、随分と余裕がある。いや、これは諦めに近いものなのかもしれない。
 首元で緩められていたネクタイを解くと、尾形さんはそれを私の目に被せると、きゅっと後頭部で結んだ。目隠しをされ視覚を奪われた私の体は更に敏感になり、嗅覚と聴覚が寄り研ぎ澄まされていく。

 体を反転させられうつ伏せになった私に、けつを上げろとお尻をパシンッと叩く。ひゃう、と声が出て痛いはずなのに、それすら快感へと変わっていく。

「ね、ねえ…っ、何する気なの」
「少し黙ってろ」

 背後に気配を感じた時、猿轡のようにタオルを口を噛まされ塞がれた。ひゅう、ひゅう、と息が口の端から漏れる度に、この状況に私の体はムズムズしはじめていた。何を期待しているの、と自分を叱咤したつもりだが、どうやら尾形さんには全て見透かされていた。

「何興奮してんだよ、ハハッ」
「んぐっ、ン、ンンー!!」

 口を塞がれたまま反抗的に叫んでも、結局言葉にすることは叶わない。

 背中に覆い被さってきた彼は、お腹辺りを弄るとブラウスの隙間から手を忍ばせて、ブラジャーの上から揉みしだいた。思わず声が漏れ、支配欲からの満足感か顔の横から囁く。もっと鳴けよ、と。

 嫌だと身を捩れば、それを好感触だと捉えて私のブラジャーを下へずらして既にピンと立っている乳首を指先で捏ねる。タオルをぐっと噛み出そうになる声を必死に耐えていると、それを面白がって乳首を摘まんでぴっと引っ張った。痛みからくる快楽に思わず腰がびくっと浮いてしまうと、その弾みで尾形さんの下半身の膨らみがお尻に触れて、それが余計に催淫剤となった。

 ねえ、もう、いやだ。

 目で訴えたいのに、そう口で伝えたいのに、私はきゅっと目蓋を閉じた。

「さあ、楽しもうぜ」

 面白そうに彼は、ははぁと笑った。