俺が会社に勤務して、早半年になる。
 ここまで順調に仕事ができ、同僚にも恵まれたのは紛れもないさんのおかげだった。彼女には感謝してもしきれない。

 今回、初めて参加することになった企画に、俺は緊張しながらも先輩たちのアドバイスを貰いながらなんとか成し遂げることが出来た。成功を祝して打ち上げがあると知らされ、たまたま隣に居たさんに参加するんですか?と聞いたら、最初は「私は企画メンバーじゃないから遠慮しようかな」と苦笑していた。

 折角同じ部署なんだから一緒にお祝いして下さいとお願いし、少し考える仕草を見せたあと、じゃあ、と彼女は首を縦に振ってくれた。心の中でガッツポーズしながら、幹事の人にさんも参加することを伝えて、俺は再度さんにお礼を言うと、会場まで一緒に行こうかと彼女から誘って貰えた。
 余計な期待はなるべくしないよう、後輩の俺を可愛がってくれてるんだと思う事にした。


 会場に着いてから、打ち上げが始まると店内は賑やかになった。

 さんとテーブルが離れてしまったので、俺はたまに彼女の様子を見ながら飲む。先輩にお酌しながら、今日の企画はさー、と先輩の話しに相槌を打ちながら俺も酒を嗜んだ。
 漸く先輩の話しが終わり、気になるさんを見てみると何故か両端が男共にすり替わっていた。あれ、さっきまで仲の良い女の人に囲まれてなかったっけ!?

 焦って思わずその場で立ち上がると同時に机に脚をぶつけて悶絶する。それを見ていたのかさんはクスクス笑いながら俺に口パクで大丈夫?と言ってくれた。恥ずかしさで顔を真っ赤にする俺に、お前なにやってんだよと周りに笑われた。

 少しだけあっち行ってきます、とテーブルを離れるとさんがいるテーブルまで向かった。彼女はさっき大丈夫だった?と心配してくれたが、俺はこの状況を大丈夫ですかと問いたかった。両端に座っていた先輩たちに「少しだけさん借りていいすか」と言い返事を聞く前に、彼女の腕を掴んでお店の外まで連れ出した。

 突然の事で驚く彼女に、俺は何度か口を開いては閉じを繰り返し、男らしくしろよと自分に言い聞かせて彼女を見た。

「あのっ!……良かったら、この後…一緒に飲み直しませんか?」

 更に驚きの表情を見せる彼女に、まさか俺やっちまったかと次第に不安になっていく。

「それって…、この後抜け出そうってこと?」
「そ、そうです!」

 店から漏れる明かりが彼女の顔を照らした時、お酒の所為なのか赤く染めた耳が見えた。横の髪を耳に掛ける仕草は色っぽくて、思わずゴクリと生唾を飲み込む。

「いいよ」

 俺を見上げて照れたような笑顔を見せた彼女は、とても愛らしかった。



 それから俺たちは二次会に行くという皆と別れて、さんを送って行く名目で抜け出した。どこで飲む?と俺の顔を覗き込む彼女に、俺んち、とか。と冗談みたいな半分本気のことを聞いてみると、そうだねとあっさりオッケーを出してくれた。いいのか、本当にいいのか…?

 つーか最近掃除してなかったから部屋汚いんだよなあ。物が少ない分、部屋の片づけは直ぐに終わるからいいか。
 コンビニに寄って籠いっぱいのお酒を買い込むと、俺んちに向かった。


 それから展開はあっという間だった。

 仲良く談笑しながら、酒に酔った勢いと、それっぽい空気に飲まれて俺たちは体を重ねた。どっちが合図を出したわけじゃない。自然とそうなっていた。絡み合う視線と、お互いの体温を求めるように、俺たちは互いの名前を何度も呼び合った。

 彼女の中で、俺は何度も満たされた。俺ばかりが幸せな気持ちになっていいのかと、途中胸の奥が痛くなった。正常位で彼女を組み敷いてると、俺の汗が彼女の頬を濡らした。

「俺、あなたが好きです」

 彼女の手がそっと俺の顔に伸びてきて、その綺麗な指が何かを拭った。

「泣かないで」

 言われて、自分が泣いてることに気づいた。なんで告白しながら泣いてんだよ俺。情けねえ。
 畜生、と眉間に皺を寄せて呟けば、佐一はずるいよとさんは苦笑した。今度は俺が彼女の一言に驚かされた。

「ホント、ずるい……っ」

 彼女は俺にズルいと何度も言いながら、俺の顔を引き寄せ、そっと優しい口付けをしてくれた。





 早朝、俺の腕枕で眠る彼女が目を覚ますと、おはようと言った。彼女はまだ眠たそうな目を擦りながら「おはよう」と優しく囁いてくれた。
 出勤して挨拶することはあっても、こうやって起きた瞬間にする挨拶はいつ振りだろうか。

「ねえ、さん」
「なに?」
「付き合おっか」

 彼女は布団から上半身を起こすと、驚いた表情で俺を見下ろす。やっぱり駄目かな?と困ったような笑顔を向ければ、彼女は顔を横に振って柔らかく笑った。

「嫌じゃない…嫌じゃない、よ」



 俺に降り注いだのは、彼女からの優しいキスだった。