今年も暑い夏がやってきた。

 降り注ぐ暑さから逃れるように、俺は木陰のある公園のベンチで深く腰掛けていた。額から流れる汗が顎に伝い、ぽとりと腕に落ちた。

 今年は三年前と同じ暑い日が続くと朝のニュースで言っていたのを思い出し、自販機で買っておいたペットボトルの麦茶を手に取ると、ごくりと一口飲む。喉に流れたそれは、もうぬるくなっていて正直美味しくない。



 三年前、俺は就職した勤め先の会社で、高校時代の先輩で憧れの対象だったさんと再会した。鈴の音のような綺麗な声で、俺の顔を見て笑って「佐一君」って呼んでくれた時は、覚えてくれてたんだって嬉しかった。

 それからさんが俺のお世話係になってくれて、仕事のイロハを教えてくれた。強かで優しかった彼女は、嫌な顔せず俺の失敗に「大丈夫だから」と笑って許してくれた。理想の上司であり、憧れが尊敬へ、そして好きな人に変わっていた。

 どんな時も俺の味方でいてくれた。

 早くに両親を亡くした俺は、人の温かさが欲しくて堪らなかったのかもしれない。
 理想の人が目の前に居て、本当に俺がこの人と一緒に居ていいのかなって思ったこともあった。


 独り立ちが出来た頃、プロジェクトの成功を祝して打ち上げがあった。
 やっぱりさんは人気者で、さんを狙ってる人は俺だけじゃないってことも知った。だから、咄嗟に体が動いて、この後二人で抜け出しませんかって彼女に耳打ちした時は、いたずら好きの女の子みたいな笑顔でいいよって言ってくれた。

 それから色んなことがあって、付き合うことになった俺たちは、いっぱい色んな所に出掛けた。遊園地デートの時にアトラクションで水浸しになって、濡れたTシャツから覗く透けた素肌が艶めかしかった。
 それ程に、彼女は魅力的で俺の理想そのものだった。

 結婚しようってプロポーズした時も、泣きながら笑ってた。



 ぜんぶ、ぜんぶ、あなたと過ごした三年間の思い出だ。
 

 公園で遊んでいた息子が、笑いながら「とうちゃん!」と駆け寄ってきた。汗びっしょりになった顔をタオルで拭いてやると、持ってきていた水筒の麦茶を飲ませてやる。
 砂遊びをしていたのか、泥だらけになった服を見て「楽しいか?」と笑い掛けると、大きく頷いて笑った。


 俺は、あなたの残してくれた宝物を今も大事に見守り続けてるよ。



「いまでもあなたが好きです」