冷たくて、温かい

act.4 きらめきに誘われて




 提出期限に何とか間に合ったレポートを提出して私はホッと溜息を吐いた。

 百ちゃんに町田君との関係を問われた後、直ぐに逃げた私はあれから百ちゃんと会っていない。百ちゃんからも特に連絡はないし、私達の関係なんてこんなものだ。彼にしてみれば、私なんて放っておけば、また顔出すだろうぐらいの存在だ。

「ねえ、町田君と付き合うことにしたって本当?」
「まだ付き合ってないよ」

 パックジュースを飲みながら駆け寄ってきたあっちゃんは、最近の私と町田君の距離にそろそろなんじゃないの?と楽しんでいる模様。確かに町田君は良い人だし、百ちゃんを簡単に諦めきれるなら、さっさと町田君を好きになっちゃいたい。それぐらい、彼は本当に魅力的な人だと思ってる。

 町田君には百ちゃんについて「親戚のお兄ちゃんでいつも私の事心配してるだけなの」と説明しておいた。そうなんだねって笑ってくれた彼に、天然万歳なんて私は心の中で感涙した。

「町田君に渡すプレゼントは決まった?」
「だ、か、ら!私は別に町田君の事、」
「俺が何?」
「っ!?」

 いつからそこに居たのか、町田君は自分の名前が呼ばれたと思って私達に近寄ると、いつもの爽やか笑顔で此方を見ていた。

「あー、えっと……あ!明日からイルミネーションがあるみたいだね!ポスターが掲示板に貼ってあったんだけど見た!?」

 咄嗟に思い出した掲示板のポスターのことを話題にしてみると、あっちゃんもそういえばあったねと話に乗ってくれた。町田君も見たらしく、二人は見に行くの?と私達に訪ねた。あっちゃんは彼氏と観に行くらしくピースしながら笑ってたけど、私は親の用事が、なんて思いつく限りの嘘を並べる事にした。
 あっちゃんに何度か肘で脇を小突かれたけど、私は頑なに用事があるんでと言い続けて、町田君が他の人と行きますようにと、心の中で何度も呪文のように詠唱した。

「あ、もしかして町田君、と一緒に行きたかったんじゃないの?」
「ちょっと、あっちゃん…!!」
「まあ、ね。でもさんも用事があるみたいだし、また日を改めるよ」

 町田君グッジョブ!心の中でガッツポーズを決める私に、あっちゃんは何やってんのよとアイコンタクトをしてきた。彼が午後の講義で居なくなった後、あっちゃんにまだあの人が好きなの?と仕方のない子供を見るような表情で苦笑した。

「うん…。何十年って片想いしてたんだよ。簡単に忘れられたら…どれだけ楽だろうって、思う」
「じゃあさ、さっさと気持ちにケリ付けたら?」
「え?」
「アンタの中にいる百ちゃんを思い出に出来るように、まだ心の中にある百ちゃんへの想いをぶつければいいじゃない」

 伝えれば少しは楽になると思うよ。そう言ってあっちゃんは微笑む。

 失恋したって思ったけど、告白して断られたわけじゃないから、それって私が思い込んでるだけの失恋だ。あっちゃんの言葉を一つずつ噛み砕いていく。最初からその場の雰囲気だけで失恋したって、勝手に思い込んでた。

「ねえ、あっちゃん」
「なに?」
「やっぱり、百ちゃんを諦めきれない」
「うん。がんばって」
「ありがとう。もう少し頑張る。1パーセントでも可能性にしがみ付いてみる」
「それだけあれば充分よ」
「あっちゃんイケメン」

 友達の言葉に救われた私は、大学の授業を終えると直ぐに家に帰った。

 断られたっていい。
 私の想いを、ちゃんと百ちゃんに伝えなきゃ。




 "百ちゃんへ、今日の夜、会えますか?"


 きらめきに誘われて、私の足は前へと進む。