みつけた、少女人形

 何度か出版会社に作品を送り漸く手にすることが出来た作家人生。
 新しい作品を生み出す度にヒット作が生まれ、そのすべては良く有りがちな内容。なんの変哲も無く、この時代に合わせて求められるものを作り出されたフィクション。何がこんなに楽しいんだろうかと過去作品を眺めて思う。
 嗚呼、喉が渇くってこんな感覚なのか。
 もっと刺激が欲しい。ワクワクするような、そんな楽しい出来事は無いだろうか、と。

 そして辿り着いたのが、自分の欲を満たすための行為。
 女には何不自由ない生活を送っていた。それでも満たされない。俺には何が足りない?

 存外つまらない人生だと思った。

 でも、とあるきっかけが俺の脳内をかき乱す。
 
 断片的な記憶の中で、一人の男が物語を紡ぐ。
 一体誰の記憶なのかと毎日のように思い出そうとしては諦め、でも確かに自分がそこに居る。嗚呼、もしかして俺はこの時代に生きていたのかと確固たる確信を得たのは、目の前で血を流した父親の死体を見た時だった。

 無意識の中で、俺は肉親でもある父を殺した。計画的な犯行というより、衝動的なものだった。別に父親の事を恨んでいたわけではないが、妾の子として疎まれていたのは言うまでも無かった。持っていた猟銃が震える。いや、違うな。俺の手が震えているのか…。
 こんなにも高揚した気持ちはあっただろうか。
 あの夢のままの光景に、返り血を浴びたその手で、その口元で俺は笑う。

 嗚呼、なんて美しいんだろう。

 きっかけは簡単なものだった。一人殺せば、何人殺したって同じだろうと、自分の作品を作る上で何人もの女を殺した。連日、ニュース番組ではその猟奇殺人を事件として取り上げて放送される。未だに犯人は見つかっておらず―――とニュースキャスターが言葉にする度に、俺は世の中平和になったもんだなぁと薄ら笑いを漏らした。


 さあ、次はどんなやつを殺してやろうか。
 苦悶の表情を浮かべ、嫌だ助けてと懇願する視線、絶命した時に向けられる無機質な死体が俺を見る。どれをとっても俺が愛すべき瞬間だった。

 だが俺の目に一人の少女が映る。
 何度か見掛けたが、殺すには値しない程の虚ろな目。この目を俺は知っている。いつでも死ねる覚悟のある奴の目だった。だから殺そうとは思えなかった。こんな奴を殺したところで何の楽しみもない。抵抗すら見せないだろうと安易に想像出来たから、その日は一人だけ殺した後だったし別にいいやと、横を素通りするそいつを俺の見る背景の一部のように透かせて見詰めた。

 二日目の夕暮れ時、夕日も地平線に沈むと夜が訪れる。いつものように公園で帰宅途中だろう女子高生を殺すと、血濡れた死体が一つの美術品のように美しく見えた。

 何度も人を殺していく度に、夢の内容は鮮明さを増していく。沢山の死体の山と飛び散った臓物たち。軍人が着るような服装に、戦時中の記憶であることが分かった。その中で淡々と俺は銃口で狙いを定めて敵兵の頭を撃ち抜く。そこには快感も無ければ、楽しいという感覚も無い。やらねば殺される状況に不思議と冷静だった。

 死体を眺めながら最近見た夢を思い出していると、人の気配を感じた。辺りに視線を漂わせれば、一人の少女が公園の池に飛び込もうとしている。街灯の灯りだけが、その少女を照らし、まるで舞台上にいる役者のようだった。その横顔だけで分かる、馬鹿な女が池に水浴びではなく死のうとするものだ。

 どうせ死にたいと思うのなら、俺のこのどうしようもない喉の渇きを潤してくれよ。

「なんだ。いい玩具が転がってるじゃねぇか」

 俺は呟き薄ら笑いを浮かべると、少女に声を掛ける―――――