今日も彼女に振り回されて、

好きなら好きってはっきり言ってよ!





 ケンちゃんに返事をすることが出来なかった。
 フリックする指が、震えていた。画面を、涙が濡らした。

 次の日も、その次の日も、仮病を使って学校を休んだ。親も何かあったんだろうと心配していたが、必要以上に聞いてくることは無かった。でも三日目を過ぎた頃から「いい加減学校行きなさい」と言われてしまい、私は憔悴しきった顔を鏡に映すと情けない顔してると苦笑した。

 制服に身を包み、久しぶりの学校へ行けばクラスの皆が大丈夫かー?と心配するように声を掛けてくれた。皆に囲まれるように話していた私に、隣の席でスマホを眺めていたケンちゃんが私の名前を呼んだ。

、ちょっと話がある」
「……分かった」

 私と話していたクラスの子たちは、なにかったの?と小声で聞いてきたけど、なんでもないよと笑顔を取り繕う。私はケンちゃんの後を追って教室を出ると、そのまま付いて行き辿り着いたのは無人のバスケゴールのある校舎裏だった。

「……懐かしい。ケンちゃん良く此処でドリブルの練習してたよね」
「ほな昔の話しじゃなかろ」
「そうだね」

 私は足元に落ちていた小さな石を爪先で軽く蹴る。ケンちゃんが中々話し始めないので、私から話を振ることにした。なにかあった?と優しく聞けば、すまんかったと彼は謝った。謝られる事なんて、一つも無いのに。なんでケンちゃんは自分が悪いみたいに言うの。

「ううん。もういいの」
「もうええって……ワシはそう思っとらん。お前に話さんといけんこといっぱいあるんじゃ」
「私は……ッ」

 これ以上、もう話す事なんて無いよ。私たちの幼馴染みはもう終わったんだから。友達にも戻れない関係が、これから先も続いて行くんだよ。
 なのに、ケンちゃんはどうしたいの。

「ワシは好きな奴がおる」
「知ってる」
「やから、昨日テディベア買ってきた」
「……なに?わざわざ報告?」

 もう、ケンちゃんの口から好きな人の話しは聞きたくない。やだ、やだ。

「これをかわええって言った奴がおった」
「……私だけど」
「でも、ワシはこれ以上にかわええって思っとる奴がおる」

 まさかこんな所で惚気話が始まるとは思っていなかったので、さすがにその場から逃げ出したかった。でも私が逃げるよりも先にケンちゃんの伸ばした手が私の腕を捕える。ぎゅっと力を込められて、振り解けない。

「ほら、お前の為に買ってきたんじゃ。受け取ってくれんか」

 ケンちゃんの言ってる意味が分からなかった。
 ポカンとする私に対して、ケンちゃんは「ん!」と言って例のテディベアを片手に掴んだ状態で目の前に突き出してきた。

「そ、れ……私に?」
「当たり前じゃろ」
「でもケンちゃんの好きな人……」
「いい加減気付け、アホ」
「……なによ、それっ。私が好きなら好きって言ってよ!」
「告白なんて恥ずかしゅうて出来るかい!」
「じゃあ信じない!」
が好きじゃアホ」
「アホって何よ!」
「お前はどうなんじゃ」
「え?」
「ワシんこと、どう思っとるんじゃ」
「……それぐらい分れ馬鹿」
「言葉にしてくれんと分からんのぉ」
「世界一ケンちゃんが好きだけど文句ある!?」

「ぜーんぜん、ありゃーせんわ」

 そう言って今までにないぐらいの笑顔でケンちゃんは私をぎゅっと抱き締めた。

 私たちは、今日、幼馴染みをやめた。



(あ!私の誕生日って今日だった!)
(ほんまアホやな……)