今日も彼女に振り回されて、

嫌いになったから避けてるんでしょ




 ケンちゃんに"幼馴染みをやめる"って言われてしまった。ショックのあまり、私は思わず何度も同じ事を聞き返した挙句、しつこいとケンちゃんを怒らせてしまった。

 何かケンちゃんの気に障ること言っちゃったのかな。いや、さっき怒らせたってことは、そういうことなんだよね。ケンちゃんが嫌だって思うことを私が言っちゃったんだ……。

 翌日、昨日のショックを抱えたまま、どんよりした気持ちで廊下を歩いていると、隣のクラスの車谷君が何かあったの?と声を掛けてきた。実は、と昨日のことを話すと車谷君は真剣に私の言葉をウンウンと頷きながら聞いてくれた。
 朝も教室に入るなりケンちゃんは私の横を素通りして見向きもしなかった。

「……そっか。そんなことがあったんだね」
「昨日、部活の時にケンちゃん何か言ってた?」
「ううん。何も言ってなかったけど、プレーが荒れてたからさんが話してくれた事が原因だったって分かったぐらいかな」
「ご、ごめんなさい…!なんか酷い事言われなかった?ケンちゃん短気だから」

「誰が短気じゃって?」

 背後に気配を感じ振り返ると、超不機嫌なケンちゃんが私を見下ろしながらガンを飛ばしていた。

「ヒィ…っ!ケンちゃん!?」
「今の話し、もっぺん教えてくれんかのぉ」
「あ、えっと……こ、これは」

 私を置いてそそくさと逃げてしまった車谷君に手を差し伸べるも引き留めることは出来なかった。なんて薄情な人なんだ…!さっきまで良い人だなあって思ってたのに!

「……ハァ。ワシになんか言いたい事があるんじゃったら言えばええじゃろ」

 怒りを逃がすように溜息を吐いたケンちゃんは、小さい子に言い聞かすようにして私にそう言った。それが無性に悲しくなって、私の目頭はじわっと熱くなる。溜息吐くことないじゃん。
 確かに私は子供みたいに我儘だし、ケンちゃんにいっぱい迷惑だって心配だって掛けてきた。

 でも、ケンちゃんが誰かを好きなように、私もケンちゃんが好きってだけなの。

「嫌いになったから避けてるんでしょ」
「……別に避けとらん」
「朝だって私のこと無視した!」
「それは、」

ケンちゃんの「幼馴染みをやめる」って、友達にもなれないってことなの?

「こんな風になるなら、赤の他人で居たかった」

 私はそう吐き捨てて走って逃げた。

 ケンちゃんが幸せなら、幼馴染みをずっと続けるのもいいかなって思ったりして、でもやっぱり諦めきれなくて。ずっとずっと、好きで。好きで好きで……大好き、で。
 別に私以外の人を好きになったっていい。だから、私の事を嫌いにならないで。

 もうあの頃のように戻れないの?

 私は早退届を出して家に帰った。



 帰宅してから直ぐにベッドに潜り込んで、枕に顔を埋めていっぱい泣いた。

 夕方、洗面台で顔を洗いながら鏡を覗き込むと、泣き腫らした目は真っ赤だった。こんなに泣いたのって、いつ振りだろう。ケンちゃんと出会ってから、喧嘩して泣きそうなことはあったけど、絶対に泣いてやるもんかって子供ながらに意地っ張りだった。あ、貰ったぬいぐるみを旅行に連れて行くの忘れて泣いたんだっけ。

 スマホには10件以上の着信と、ショートメッセージが届いていた。
 メッセージは友達から明日の連絡事項で、残りの数十件はケンちゃんからだった。

「どこ行ったんじゃ」「家に帰ったんか?」「さっさと返事寄越さんかい」「ワシが悪かった」
「頼むから返事くれ」

 分毎に何十件にも渡ってメッセージが届いていて、順番にスクロールしながら読んでいく。

「私…っ、あんな酷いこと言ったのに…、なん、で……ッ」

 もう枯れて出ないはずの涙が、これでもかとまた溢れた。