今日も彼女に振り回されて、

その人、こんなに想われて幸せだね






 親の誕生日プレゼントを買いたいから付き合ってと言われて、のあとを付いて歩いていたワシは、ショーウィンドウに展示品されたテディベアをふと見て足が止まった。そういえば中学一年の時に誕生日プレゼントでクマのぬいぐるみをにあげたっけか。
 あいつに贈り物をしたのは、あの一回切りだ。それ以降、なんも渡さんかったのはの母親からぬいぐるみを大事そうにしていると聞いたから。

「なに見てるの?」

 ひょこっとワシの背後から顔を覗かせたは、同じようにテディベアを見ると可愛いねと微笑んだ。んなこと言うお前の方が、かわええに決まっとろうが。

「ケンちゃんから貰ったぬいぐるみ、今も大事にしてるよ」
「なんじゃ、あんときのまだ大事にしとったんか。もうボロボロちゃうんかい」
「ちょっと色落ちしちゃってるけど、今もバリバリの現役だよ」
「現役って…なんじゃそりゃ」

 ふっと笑うと、夜一緒に寝ると凄く安心するの。そう言っても笑った。

「旅行の時だっていつも一緒だったんだから。あ、でも一度忘れた時があって、悲しくなって泣いたこともあったなぁ」
「……ほんま、お前はアホじゃな」

 かわええこと言ってくれるやないかい。わしゃわしゃとの頭を撫でれば、ちょっと髪の毛がぐちゃぐちゃになる!、と言葉では怒っていても顔は笑うとった。

「あっ!あと一ヵ月でケンちゃんも誕生日だね」
「まだ一ヵ月もあるじゃろ。それよかの方が先に誕生日来るで」
「…あ、そうか。私、もうすぐ誕生日だったんだ」

 ほんっまに抜けとるなあとを見ていると、暢気にケンちゃんより早くお姉さんになっちゃうねとか言い出した。お前が姉貴やったらワシが苦労するわと心の中でツッコミを入れる。

「でも、今年はケンちゃんも好きな人に……プレゼント渡すんだよね?」
「ほーやなぁ……まあ、お前には関係のない話しじゃ」

 そう言い捨てれば、なんでかは悲しそうな表情を見せた。なんでお前がそんな顔しとんじゃ。あの車谷のチビに誕生日プレゼントあげたらええじゃろが。少しずつじゃったが、ワシも妙にムシャクシャしとった。ほやから、お前にあんなこと言った。

 結局、勝手にワシがこいつに振り回されちょるのに、なんでこいつに当たってしまうんじゃろうなぁ。ほんま情けない男じゃ…。

 ワシはさっきのテディベアを指差し、これを好きな奴の誕生日プレゼントにすると告げる。するとは何故かさっきよりも悲し気な表情を見せ、それを必死に笑顔に変えて笑おうとする。
 とても見てられんやった。
 でも、聞いてきたんはコイツの方からじゃった。だからワシは答えた。なんも間違うとらん。

「その人、こんなに想われて幸せだね」

 そう言って、お前は必死に作った笑顔をワシに向けよった。